現在 いま ”のごはんが“ 未来 これから ”を決める~ロコモティブシンドロームの予防を考えよう~

松本雄宇

ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ)という言葉をご存じでしょうか? ロコモは筋力や骨量の低下などから、立つ、歩くといった日常動作が十分に行えず、要介護や寝たきりになってしまう状態を表す言葉です。要介護や寝たきりと聞くと高齢期の問題だと考えてしまいますが、実は若年期の生活習慣がロコモ予防に深く関わってきます。ここでは、ロコモの3大原因疾患に数えられる骨粗しょう症と、若年期の食生活との関係について紹介したいと思います。

骨粗しょう症は、骨量の低下により骨折のリスクが増大する疾患です。特に女性の場合、閉経をさかいに急激に骨量が減少するため、骨粗しょう症は多くの女性にとって切り離せない問題とも言えます。

骨粗しょう症を予防する上で重要なことは、若いうちに最大骨量を高めておくことです。日本人女性を対象とした研究では、思春期に骨量が高まり、20歳前後で最大になることがわかっています。若年期に高い骨量を獲得しておくと、閉経後の骨粗しょう症の発症を遅らせることができます。

  • 女性における骨量の推移 画像クリックで拡大表示
    女性における骨量の推移
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高い骨量を獲得するには、各種栄養素の摂取と運動が重要です。特に必要な栄養素として、カルシウムとビタミンDがあげられます。ところが、若年女性におけるこれらの栄養素摂取量は不足しています。最新の国民健康・栄養調査の報告では、15~19歳のカルシウム摂取量は推奨量の66%(推奨量:650 mg、摂取量中央値:430 mg)、ビタミンDに至っては31%(推奨量:8.5 μg、摂取量中央値:2.6μg)しか充足できていません。驚くべきことに、若年女性の約17%が、50~60歳と同レベルの骨量であったという報告もあります。したがって、将来のロコモを防ぐためにも、カルシウムやビタミンDを若いうちから意識的に摂取することが求められます。

  • 充足率(%)=各栄養素の摂取量(中央値)÷推奨量・目安量×100    摂取量:令和元年度 国民健康・栄養調査(7~14歳、15~19歳女性)    推奨量・目安量:日本人の食事摂取基準 2020年版(12~14歳、15~17歳女性)  画像クリックで拡大表示
    充足率(%)=各栄養素の摂取量(中央値)÷推奨量・目安量×100
    摂取量:令和元年度 国民健康・栄養調査(7~14歳、15~19歳女性)
    推奨量・目安量:日本人の食事摂取基準 2020年版(12~14歳、15~17歳女性)
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  • 充足率(%)=各栄養素の摂取量(中央値)÷推奨量・目安量×100    摂取量:令和元年度 国民健康・栄養調査(7~14歳、15~19歳女性)    推奨量・目安量:日本人の食事摂取基準 2020年版(12~14歳、15~17歳女性)  画像タップで拡大表示
    充足率(%)=各栄養素の摂取量(中央値)÷推奨量・目安量×100
     摂取量:令和元年度 国民健康・栄養調査(7~14歳、15~19歳女性)
    推奨量・目安量:日本人の食事摂取基準 2020年版(12~14歳、15~17歳女性)
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カルシウムは牛乳・乳製品、小魚、大豆などに、ビタミンDは魚類やキノコ類に多く含まれていますので、これらの食品を積極的に摂取することを心掛けましょう。また、これらの栄養素を効率的に摂取する方法として、健康食品を利用するのも一つの手です。栄養素の補給を目的とした栄養機能食品や、カルシウムの吸収を助ける働きを持つフラクトオリゴ糖やポリグルタミン酸を含む健康食品の利用が効果的です。

一方、「栄養素を充足させるためにたくさんサプリメントを利用しよう」という考え方は危険です。たとえ栄養素であっても、過剰に摂取すれば健康に悪影響が出る恐れがあります。特にカルシウムは、過剰摂取による健康被害が明らかになっています。サプリメント形態のものは過剰摂取しやすいので注意が必要です。必ずパッケージに書かれている用法・用量を守って使用しましょう。もしも身体の不調を感じた場合、すぐに使用をやめて医療機関にかかるようにしてください。

また、リンを多く含むもの(インスタント食品やスナック菓子など)、カフェインを多く含むものを大量に摂取することは控えましょう。これらはカルシウムを体外へ排出する効果があります。最近では若年層の間でエナジードリンクが流行していますが、一部のエナジードリンクには高濃度のカフェインが含まれています。試験や部活などで頑張り時が多い方ほど、ついたくさん飲用してしまいがちですが、将来のロコモ予防のためにも過剰な飲用は控えましょう。

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以上のことを3つにまとめると、

  1. ① 若年期に骨量を増加させることが将来のロコモ予防につながる。
  2. ② 最大骨量を増加させるために、カルシウムやビタミンDを食事からしっかりとる。一方、リンやカフェインを多く含む食品はほどほどに。
  3. ③ 栄養機能食品やカルシウムの吸収を助ける健康食品を合わせて利用すると良い。ただし、用法・用量は必ず守る。

自身の食生活に不安を抱いた方は、以下の日本骨粗鬆症学会のホームページから利用できる「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」の自己チェック表(156ページ)でチェックしてみるのはいかがですか?また、管理栄養士に相談してみるのも一つの方法です。皆さんの健康を一緒に考え、助けてくれますよ!

参考

  • 日本骨粗鬆症学会 
    「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」は、ページ右上にあるメニューの「ガイドライン」>「2015年度 予防と治療のガイドライン2015年版」から利用できます
  • 令和元年度 国民健康・栄養調査|厚生労働省
  • 日本人の食事摂取基準 2020年度版|厚生労働省
  • Hirota T, Nara M, Ohguri M, Manago E, Hirota K. Effect of diet and lifestyle on bone mass in Asian young women. Am J Clin Nutr. 1992; 55(6): 1168–73.
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報 「骨の健康維持に役立つ」表示をした食品|国立研究開発法人 国立健康・栄養研究所
  • エナジードリンクについて(Ver.190402) |国立研究開発法人 国立健康・栄養研究所

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