日本政治史こぼれ話 ―第1回衆議院議員選挙の様子―

1890年(明治23年)、わが国初の国民議会である帝国議会が開会する。その第1回衆議院議員選挙では全国から300名の代議士(衆議院議員)が小選挙区制(一部2人区含む)で選出された。その内訳は士族109人、平民191人で、平民の中で最も多かった職業は、農民(地主層)125人、次いで弁護士20人だった。平均年齢は42歳。当選者の中には、時の農商務大臣陸奥宗光、憲政の神様尾崎行雄、後の総理大臣犬養毅、思想家の中江兆民や植木枝盛など憲政史上に名を連ねる人物がそろっていた。

  • 帝国議会第1次仮議事堂(国立国会図書館デジタルコレクション)
    帝国議会第1次仮議事堂
    (国立国会図書館デジタルコレクション)

参政権は制限選挙で、選挙権は直接国税15円以上を納税する25歳以上の男子(人口比1.1%)、被選挙権は、同納税額の30歳以上の男子だった。有権者は投票用紙に、氏名住所の記載と捺印が義務づけられていた。投票率は93.7%。

最多得票当選者は、佐賀1区(定数2、有権者数5483人)の松田正久候補で4548票、最少得票当選者は鳥取6区(定数1、有権者数51人)の吉岡倭文麿候補の23票だった。
立候補は届け出制ではなく、自薦、他薦を問わない推薦制で、そのために本人が知らない間に候補者にされ、珍事も起きている。大分県内の選挙区では、同一人物の元田肇候補が1区と5区の両選挙区で当選してしまい、5区の当選を辞退し再選挙が行われている。また東京5区では、当時既に財界の大物であった渋沢栄一が本人の辞退にもかかわらず候補者に推薦され、次点で落選している。

その後幾度かの選挙制度改革を経て財産と性別による制限は撤廃され、有権者の人口比は2016年の18歳選挙権実施により80%を超えた。しかし、昨年2021年の衆議院選挙の投票率は55.3%に留まっている。隔世の感があるが、それは長い年月の流れだけではない。

弥久保 宏

参考文献
村瀬信一『帝国議会-戦前民主主義の57年―』講談社、2015年。
日本放送協会『歴史への招待8復刻版』NHK出版、1994年。

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