新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するUCLA Medical Centerでの取り組み UCLA Medical Center 看護師 伊藤千春さんからのメッセージ

看護学部 学部長 豊田淑惠
老年看護学 村田友紀子

2020年も、もうすぐ終わろうとしているのに、COVID-19の終息はいまだ期待できませんね。日本国内では、感染拡大防止に国民全体で取り組んでいるためか、欧米諸国のようなパンデミックには至っていません。しかし、冬場に入ってからの感染者数増加は、これまでと異なり、日々最高値を更新している状態です。12月12日のデータでは、稲城市の陽性者数は累計で139人とのことですが、東京都全体では47,225人です。実習施設では、同系列のコロナ感染者病棟のある病院へ看護師をリリーフに出している関係で、日勤の看護師数が減らされ、切迫した状態を肌で感じている毎日です。そんな時に、米国で看護師として働いている伊藤千春さんより、感染予防対策についての情報がきました。

伊藤さんは、米国ロサンゼルスにあるUCLA Medical Centerの心臓カテーテル検査室で働いています。以下に、今年の3月から彼女たちがCOVID-19感染防止のために取り組んできた内容をご紹介します。


1.COVID-19対策委員会の発足

3月よりCOVID-19対策員会が発足し、感染症専門医、集中治療室専門医、呼吸器専門医、各病棟看護師、薬剤師、マネージメントなどで構成されたチームで病院内での予防策やポリシーを新しく確立しました。新しいエビデンスを元に内容は日々修正され、Zoom Meeting、SNS、ポスター、e-mail、電話などを通して情報を共用し、アップデートしています。

2.Online Daily Symptom Monitoring Tool オンラインでの症状観察記録

毎朝SNSメッセージで、勤務当日のCOVID-19症状の有無を確認する質問表が送られてきます。職員はその質問表に回答することにより、当日の勤務許可証がSNSに送られてきます。少しでも感染疑いがある場合はCOVIDホットラインの指示を受け、自宅待機を命じられます。病院での入口でネームIDをスキャンすることで勤務許可証の有無を確認できるので、うっかり回答し忘れてしまうと質問表に回答するまで病院内には入れません。

3.Thermal screening サーモグラフィーカメラでの体温チェック

ネームIDをスキャン後、サーモグラフィーで体温チェックします。日本ではお馴染みのサーモグラフィーですが、アメリカでは画期的です。接触せずに行うことで感染率も抑えられ、安全性も高まりました。同時に正しいマスク着用の有無なども確認。体温チェックを始めた当初は、マスク着用に否定的な方が多くいましたが、現在では比較的受け入れられています。

4.徹底した環境整備、手指衛生、サージカルマスクの常用

一日の始まりはブリーチ液で部屋の至る所を拭きます。感染患者の使った部屋はブリーチで拭いた後に紫外線照射で部屋を30分消毒します。手指衛生は徹底し、サージカルマスクは食事以外には常に着用します。

5.PCR検査実施

予定された手術や外来検査は48時間以内のPCR検査実施を患者に義務づけられています。検査をせずに病院に来た場合は予約キャンセルとなり、予約の取り直しとなります。入院患者は7日以内の検査が必要ですが、麻酔を伴う手術や検査は48時間以内になります。

6.PPE個人防護服の使い分け

UCLAではレベル1とレベル2に分けて個人防護服の使い分けをすることにより適切な感染防御と物品の無駄使い防止に務めています。
レベル1は一般的な感染症用の防護服で、COVID-19はレベル2になります。各病棟にPPEポスターがあり、QRコードを読み取ることでいつでもレビューできるようになっています。必要であれば、COVID safetyチャンピオンと呼ばれるトレーニングを受けた看護師がPPEの着脱を最初から最後まで汚染がないように厳しく指導します。

7.面会禁止、ZoomやFace Timeを通して家族と面会

入院患者の面会は基本的に禁止し、各部屋に装備されたタブレットや個人の電話、Face Timeを通して面会してもらいます。外来患者の検査待合室ではソーシャルディスタンスに配慮して一定間隔に椅子が並べられています。

8.code blue、STEMIなどの緊急ケース

PCR検査結果が出ていない場合は、フル装備(レベル2)で対応します。各病棟、検査室、手術室はあらかじめCOVID感染患者用の部屋を用意。カウンターの上は何も置かず、必要最低限にすることで汚染、感染拡大を防止します。感染患者部屋にいる看護師は手術または検査が終わるまで部屋の外に出ることはできません。必要な時は部屋外で待機している外回り看護師に部屋内からハンズフリーの電話で連絡します。

9.職員へのセミナーやトレーニングの実施方法の変更

BLSやACLSなどの実技が必要なクラス以外は可能な限りZoom Meetingで対応しています。ソーシャルディスタンスを取りながら1グループは10人以内に制限し、ソーシャルディスタンスが取れない場合は1グループ5人以内でマスクまたはフェイスシールドの着用が必須です。

10.COVID-19データの共用

WHO、CDC、カリフォルニア州内での感染者数、UCLAでの陽性患者数や入院患者、死亡者数は日々更新され、メールやUCLA webサイトで閲覧できるようになっています。

11.医療従事者へのメンタルケア

UCLAではCOVID-19関連でやむを得ず出勤できない場合(子どもを見る人がいない、感染の可能性がある、COVID疲れなど)に自由に使える有給休暇が特別に設けられました。また、ランチタイムや勤務終了時に利用できるアロマセラピー、瞑想、クイックマッサージやサポートグループなど医療従事者がコロナ疲れせずにいられるようにメンタルケアも充実しています。

  • 防護服姿の伊藤さん
    防護服姿の伊藤さん
  • PCR検査数
    PCR検査数

まとめ

COVID-19感染爆発で幕開けした2020年は、今までの生活様式を一変させただけでなく、未知のウイルスと共存するために"new normal"と言われる新たな常態、意識変革を強いられています。人種や文化は違えど、コロナに対する組織での徹底した体制作りは感染拡大防止のためには必要不可欠だと考えます。各国のCOVID-19への医療体制が少しずつ前に進み、終わりは必ずやってくると信じて私たち看護師は各々、今できることを考えて行動することが大切だと考えます。


以上、米国在住の友人である伊藤千春さんから、カリフォルニアにおけるコロナ対策の現状報告と私たちへのメッセージを紹介しました。

日本の現状と比較すると羨ましいほどに早期より徹底した感染防止対策システムがとられていることがわかりました。特にOnline Daily Symptom Monitoring Toolが日本でも導入されると社会人や生徒・学生らが登校・出勤可否の判断が容易にできることで安心して行動できるので日本での導入を期待したいものです。またメンタルケアのサポートが充実していることは、一時の補助金支給よりも長い目で見ると心身ともに健康で過ごすための基礎作りとして利用価値が高いものと思います。日々、厳しい医療体制の中でコロナ対応に奮闘されている私たち看護職の諸先輩や同僚・後輩たちへ「ウイルスに負けないで、明日に向かって打ち勝とう!」とエールを送りたいと思います。(独り言 豊田)

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