書評 – 『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます!』【キウイの項目】

2024年6月に『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます! 調理科学×栄養がとれる食べ方のコツ』という書籍が発売されました。とても面白そうなタイトルなので1冊購入して、私の長年の研究材料であるキウイの項目(188-191ページの4ページ)を読みました。

デザイン性に優れており読みやすく、「皮ごと食べると食物繊維やポリフェノールが多く摂取できる」ことや、「追熟するとアクチニジンが増える」こと、「果実を丸ごと冷凍してから表面だけ解凍すると、手で皮がむける」ことなど、一般向けに役立つ内容が平易に記載されていました。

しかし一方では誤植や根拠の疑わしい記述、誤解を招く表現なども複数見られました。以下にその例を挙げます。

  1. (1)188ページの「アクチニジンは皮に果肉の4倍が含まれる」および「皮のすぐ下にアクチニジンが豊富であり、皮を厚くむくとアクチニジンがほとんど失われる」という内容の記述を裏付ける確かな根拠は、私が知る限りありません。実際にはこのように、アクチニジンは果肉中に広く分布しています。このことは、たとえ皮を厚くむいたとしても、果肉中のアクチニジンによってゼラチンが分解されてゼラチンゼリーが作れないことから、家庭でも簡単に確認することができます。
  2. (2)188ページの「ビタミンCは中心の白い部分(果心部)にダントツに多い」という内容の記述を裏付ける確かな根拠は、私が知る限りありません。実際にはこのように、むしろ周囲の果肉部分の方が果心部よりもビタミンCの濃度が高く、果心部のビタミンC濃度は周囲の果肉のビタミンC濃度の70%程度に過ぎません。
  3. (3)188ページに「キウイを食べた時に喉がイガイガする人は食物アレルギーの可能性があるので皮をむいて食べるように」という内容の記述があります。上記(1)に記したとおり、皮をむいてもアクチニジンの摂取量が大きく変わることはなく、また、アクチニジン以外のアレルゲンも複数存在する(ソーマチン様タンパク質、フィトシスタチン、キウェリンなど)ため、この記述はまったく無意味です。また、微量のアレルゲンでもアナフィラキシーを起こすことがありますので、命に関わる危険性さえあります。特に一般向けの書籍では、誤解を招かないように細心の注意を払うべきでしょう。
  4. (4)188ページの「アクチニジンは黄色いキウイより緑のキウイに豊富」という記述は誤解を生じる可能性があります。ごく一般的な緑色果肉のキウイ(ゼスプリ・グリーン、ヘイワード種)と、黄色果肉のキウイ(ゼスプリ・サンゴールド、ZESY002種)だけで考えるのなら、何ら問題はありません。しかし、アクチニジンの量は果肉の色とリンクしているわけではありません。さぬきゴールド、アップルキウイやハニーキウイのように、緑色果肉のキウイよりもアクチニジンが豊富な黄色果肉品種も広く市販されていますので、より丁寧な説明が望まれます。
  5. (5)189ページに、キウイの可食部100 gに含まれるアクチニジンの量が「6.8 g」と記載されています。これは「0.4 g前後」の誤りです(キウイの可食部100 gにはたんぱく質が1.0 g含まれています。アクチニジンもたんぱく質の一種ですので、1.0 gを越えている時点で完全に矛盾が生じます)。
  6. (6)189ページに、キウイの可食部100gに含まれる食物繊維の量が「2.6 mg」と記載されていますが、単位は「mg」ではなく「g」の誤りです。このままでは、せっかくのキウイの豊富な食物繊維が、実際の1,000分の1になってしまいます。
  7. (7)189ページに「ネルギー代謝・・・」という記載があります。「エ」が欠落したようです。
  8. (8)190ページに「追熟によりビタミンCが倍増する」と読み取れる見出しがあります。その下の本文には、「追熟に伴いビタミンCが微増する」との内容が正しく書かれていますので大きな混乱はないかもしれませんが、この見出しは誤解を招きます。

せっかく興味深い内容が記載されているにもかかわらず、誤りが多いのが非常に残念です。なるべく早期に正しく修正されることを期待します。

出版元の世界文化社によれば、これらの箇所の多くは重版時(3刷以降)に修正をされるようですが、重版前の書籍をすでに購入した皆さまにお願いです。

これらの誤った情報を、Webや雑誌の記事、書籍、テレビ番組、SNSなどで拡散されないようにお願いいたします。

これらの誤りは、一般の方々はもちろんのこと、専門家でもキウイフルーツを専門にしている人でなければ、誤りであることを見抜くのが困難な内容を含んでいます。そのため、視聴率の高いバラエティ番組などで拡散されると歯止めが効きません。根拠のない誤情報が、いつのまにか既成事実化することもあり得ます。

キウイフルーツに関する誤った情報の拡散防止にご協力をいただきますよう、心よりお願い申し上げます。

  1. ※ 本記事中の赤文字は、『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます!』(世界文化社)より、書評のために必要最小限の引用をした部分を示します。

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