「旅行業実務論」株式会社エイチ・アイ・エスとの産学連携授業の紹介 ~観光庁長官賞受賞ゲストスピーカーによる「ユニバーサル・ツーリズムの取り組み」~
2021/09/07
皆さん、ユニバーサル・ツーリズムという言葉を聞いたことはありますか。ユニバーサル・ツーリズムとは、「年齢や能力、障がいなどにかかわらず、すべての人が実現できる旅行」のことです。アクセシビリティ・ツーリズムと呼ぶ場合もあります。
誰もが自由に世界を旅することができる社会を目指して、株式会社エイチ・アイ・エス(以下HIS)は2002年からユニバーサル・ツーリズムデスクを開設しています。主に車椅子を利用する肢体不自由の障がい者や高齢者、聴覚障がい者向けに旅行情報の提供、ツアーの企画販売を行っています。観光文化学類の実務論科目のひとつ「旅行業実務論」では、HIS担当デスクの片桐幸一さんをゲストスピーカーとしてお招きし、「ユニバーサル・ツーリズムデスクの取り組み」について講演をしていただきました。
片桐さんは自身が先天的聴覚障がい者でありながら、多くの障がい者に旅行を楽しんでもらいたいと希望しHISに入社。聴覚障がい者向けに旅行企画・販売・添乗を担当しています。音が聞こえない聴覚障がい者には、旅行の計画段階から実施までさまざまなバリアが存在します。阻害要因をひとつひとつ克服して、これまで多くの人々に感動を与えてきました。それが認められ、2021年ツアーグランプリ観光庁長官賞を受賞されています。
授業のスライド
HISユニバーサルツーリズムデスクの紹介
授業では、ユニバーサル・ツーリズムに関する取り組みの紹介ほか、ツアー中の写真を見ながら障がい者の阻害要因を考えたり、「すぐに使える手話講座」も行い、障がい者理解を深めることができました。
聴覚障がい者は見た目で障がいがあることがわかりにくいため、健常者の配慮が最も薄い障がいとも言われています。飛行機内で機内アナウンスが聞こえないため、食事のタイミング、乱気流の案内を理解できず困ることが多いそうです。聴覚障がい者は手話で会話をするため、食事時間が健常者の1.5倍から2倍かかることを想定して日程を組むそうです。また、ホテルではドアノックされても気づかない、目覚ましも聞こえない、火事などの非常ベルも聞こえないなどの「目に見えないバリア」が潜んでいます。観光サービスのあらゆる局面で配慮すべき点があることがわかりました。
ワンポイント手話講座
手話ツアーの様子
片桐さんから学生に対するメッセージとして、次の言葉が最も印象的でした。「障がいは個性であり、武器だと思っています。僕も音がよく聞こえないからこそ、障がい者の気持ちがよくわかり、寄り添えるのです。短所やコンプレックスも同じことではないでしょうか」
学生からのコメント
- 片桐さんが障がいを持っていることに対してポジティブに考えていて、こちらまで勇気をもらえました。多くの人に旅を楽しんでほしいという思いが溢れて、いきいきしながら社会に貢献できている姿が格好いいと思いました。
- 障がいを持っていることで差別を受けることの現実も考えさせられました。少数派である障がい者のことを健常者が理解しようとすることがやはり大切だと思った。今回の講義を受けて、障がいに対するイメージが変わった。知ることの大切さを身に染みて感じました。
現代は多様性と共生が求められる社会です。障がい者にとってよい環境は健常者にとってもよい環境のはずです。誰もが自由に旅をすることができる社会の実現のために、傍観者ではなくひとりひとり何ができるかを考えさせられる大変有意義な授業になりました。
担当:鮫島卓