06:2015フィールドワーク 雄大な自然と調和するリビングデザインを体感しよう! 軽井沢〜東御〜茅野を訪ねる旅

住空間デザイン学科のフィールドワークは、東京の稲城という大学の地を離れて、地方にて建築、アート、工芸などを含む他の地域の環境や生活文化を体験学習するために行っています。今年は2年生が夏休みの終盤、軽井沢〜諏訪方面を2泊3日で訪問しました。

  • 軽井沢 旧三笠ホテル前にて
    軽井沢 旧三笠ホテル前にて

代表的な見学地は以下で、内容は時代をまたがる広範囲な文化ジャンルの見学地を調査研究するものになっています。

盛りだくさんな2泊3日の日程の中で学生が得た考察の一部をご紹介します。

「海野宿」-北国街道の宿場町を訪ねて-

2年 深町友里

  • 海野宿の町家の美しい窓周りと柳並木
    海野宿の町家の美しい窓周りと柳並木

新しいもの伝統的なものが交錯する現代の日本にあって、江戸期そのままの姿で海野宿は今もその姿を残している、海野宿は1625年に北国街道の宿駅として開設された。伝統的な家並みが現在まで保存されていることから、「日本の道百選」や「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている。その町並みは、道の中央を用水が流れ、江戸時代の宿場の建物と、明治以降の養蚕造りの建物がよく調和しながら、生活感が伝わる風景は我々にその土地の歴史を教えてくれる。

バスを降り、田園風景や田んぼの香りに祖母の家を思い出す。実を言うと海野宿を下った小諸に私の祖母は住んでいる。8月のお盆には新盆を迎え、親戚一同で先祖に感謝した。その祖母の家から車で30分とかからず着くこの海野宿なのだが、私はその存在を知らなかった。

事前学習の際に基本的な情報は得たが、実際の想像ができないまま資料を手にしてその場に行くと、過去の日本の宿場町の原型がそのまま現代に取り残されたような光景が広がっていた。

「時が止まった静けさの街」と謳われるほど、その空間は静寂に包まれていた。夏の観光シーズンが終わったばかりで、シン…という音が聞こえてきそうなほどの静寂は都会の喧騒が嘘のような、まるで二次元の世界へ迷い込んでしまったかのような異次元空間だった。

  • 時代劇のセットのような街の中で今も変わらず人々が暮らす
    時代劇のセットのような街の中で
    今も変わらず人々が暮らす

我々が訪問した時はちょうど時期的にガラス工房などのお店は閉まっていたが、その場の建物から時代や歴史が見て取れた。

資料館の入り口をくぐり、歴史ある道具たちの展示や表の町家空間に続く作業スペースや厠などを見ていくと、現代の日本がどれだけデジタルな社会になっているのかをしみじみと感じた。また現代社会の中でこの街全体を維持する労力と情熱を思った。

新しきの良さ、古きの良さ、美しい海野宿の道を仲間たちと歩くことで遠い過去と近い未来を感じることができた時間だった。

「音を辿って」-万平ホテル、軽井沢タリアセンから-

2年 小林洸子

訪問先:万平ホテル・軽井沢タリアセン

訪問先で見つけたピアノをアートという観点から過去と現在、未来の可能性について考察する。これから取り上げる二つの楽器のうち、私が事前調査の段階で把握できたものは、軽井沢タリアセンの深沢紅子・野の花美術館のレストランに展示されているピアノのみである。このピアノは建築家F.L.ライトがデザインした楽器である。実際にこのピアノを観てみると、金属部分や木枠の淵まで細かい装飾が施されているのがわかる。(写真A)これはアメリカのピアノ産業の先駆けであった フィッシャー製のピアノで1920年代にF.L.ライトがデザインを手掛けていたことがわかった。今回の別の訪問先である万平ホテルの資料室にもこれと同じ時期に製造さ れたヤマハアップライトピアノが展示してある。(写真B)長年使い込んだ為か、白鍵の一部が剥がれているのがわかる。かつてはメインのダイニングルームに置かれて いたこともわかった。 (写真C)

  • 軽井沢タリアセン内深沢紅子 野の花美術館レストランにて フィッシャー製ピアノ F.L.ライトデザイン(写真A)
    軽井沢タリアセン内深沢紅子 野の花美術館レストランにて
    フィッシャー製ピアノ F.L.ライトデザイン(写真A)
  • 軽井沢万平ホテル資料室内のピアノ(写真B)
    軽井沢万平ホテル資料室内のピアノ(写真B)
  • 軽井沢万平ホテル資料室内のピアノ(写真C)
    軽井沢万平ホテル資料室内のピアノ(写真C)

※因みにこれら2台のピアノは現在調律されていないため、実際に弾くことはできない

一つのプロダクトを分野外の設計者やデザイナーが手がけるという試みが歴史の中では時折あるが、F.L.ライトデザインのピアノもその例であろう。彼も建築とプロダクトデザインの間に共通する何かを見いだす努力をしていたのかもしれない。

今現在このピアノ達は展示という形で我々に歴史を伝えるものの一つとして扱われている。これは「音を楽しむアート」から「観て楽しむアート」へ移行したと考えられる。

ここに紹介したピアノの共通点は、現在は楽器としての機能が失われている点であるが、これらピアノの保存状態から、建築で言う所のリノベーションを施すことにより、再び楽器としての価値を見出す可能性も将来的にあるのではないかと推測する。結論として、長い時を経てもアートとして存在するプロダクトの魅力を後世の人々に伝えることが、今後の課題の一つだと考える。

「環境、文化、歴史を考える」-軽井沢を訪ねて-

2年 樋渡明日香

環境、歴史、文化(軽井沢を訪ねて)

  • 石の教会
    石の教会

軽井沢という地域は避暑地ということもあり気温が涼しく、緑がとても豊かです。また、坂道が多く高低差がある地形だという事を、バスに乗っていても感じました。建築を創るに当りこういった平面的でない地形はとても悪条件に思えてなりませんでしたがそれを逆手に取りその地形を生かして創られた「石の教会」や「軽井沢千住博美術館」のような斬新な現代建築空間を堪能しました。

また軽井沢では本当に自然が濃く身近だと感じました。どの見学地を訪れても木々や草花に囲まれていて、普段コンクリートに囲まれ自然の緑が少ない地域に住む私にとって新鮮な光景でした。距離を考えると首都圏で働く多くの人には日常の住宅地としては厳しい立地ですが、自然に恵まれた景勝地として、観光や休日に過ごす別荘地としては非常に好適地として開発されてきています。中でも「星のエリア」では川に沿って商業施設が点在しており、その中に緑を感じながらくつろげるスペースがあり、川のせせらぎの音や風で揺れ木の葉の擦れ合う音を聞いてリラックスしながら過ごせるので時間を忘れられ、心身ともに安らげる空間が出来ていました。清流と森という環境がある軽井沢だからこその優れた開発事例だと感じます。

  • 万平ホテル客室壁面の漆喰材、吸放湿する素材が使われている
    万平ホテル客室壁面の漆喰材、
    吸放湿する素材が使われている

他にも軽井沢は湿気が多い地域で地面を見るとキノコが多く見られました。湿度が高い土地では建物内でカビや結露などの弊害があるのではないかと思いましたが「万平ホテル」では湿度が高い地域に建てられていることを前提に、吸放湿できる壁素材を使用していたり、部屋の換気が行いやすいようドアの上部にスライド式の小窓を設置していたりと歴史が古い建物でも敷地の環境状況に応じて工夫して建てられていることが理解できました。

歴史、文化的にも、軽井沢は国際文化と日本文化とが融合して、万平ホテルなどに見るように絶妙な和洋折衷の建築スタイルや、休日の過ごし方等、日本の避暑地のレクリエーション文化をその歴史の中で作り上げてきましたが、最近の星のエリアなどにみるように、この先もこの地の環境を生かして新しい歴史を築いていくと思われます。今回この見学でハードとしての建築だけでなく歴史や文化に触れたことで建物が建てられた背景を深く知ることができ、この学科で学んでいく上でとても貴重な経験でした。また何年後かに軽井沢を訪れ、このフィールドワークで学んだことからまた何かの変化があるのか比較してみたいと考えています。

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