フィールドワーク2016「現代へ受け継ぐ伝統と文化にふれる、金沢の旅」報告
2016/12/16
住空間デザイン学科のフィールドワークは、地域に育まれた伝統的な文化や建物・街並みを調査・体験する、主に2年生が参加する授業です。今年度の行き先は石川県金沢市。人口46万人の比較的小さな街ですが、新旧様々な建物や街並み、現代に受け継がれる多様な伝統工芸や食文化などに触れる旅となりました。濃密な2泊3日の体験を、参加した学生たちが振り返ります。
フィールドワーク2016担当教員:橘田洋子、佐藤勉
9月13日(火)一日目 行程:
東京~JR金沢駅~金沢海みらい図書館~鈴木大拙館~石川県伝統産業工芸館~金沢市立玉川図書館~金沢近江町市場
金沢海みらい図書館 建築設計:シーラカンスK&H
- 事前学習をし、実際にその建物を見学すると、想像していたスケール感と違っていたり、思いがけない感動があったり、圧倒されたりで、百聞は一見に如かずでした。(市井)
- 6,000個もある丸窓が大切な役割を果たしていたことを改めて知ることができました。事前に調べたことと実際は違っているところもあり、とても勉強になりました。館長さんにも貴重なお話を聞くことができて良かったです。(大貫)
鈴木大拙館 建築設計:谷口吉生
- コンクリートのひんやりとした印象でしたが、畳や緑があり温かみを感じました。凛とした佇まいと水面に木々が映る様子や波紋が広がっていく静かな空気感に包まれて、心が静まる空間でした。(市井)
- 内部に入ってみると壁との距離、人との距離が対照的で面白い。暗くて細い外部回廊、その先に大きく開けた外の空間に白の四角い建物。近くに座ることも、離れて座ることもできて静寂のなかにある思索空間の椅子。水鏡の庭を間にすると、遠くに人が見えていても会話が聞こえないような距離感。これらが上手く瞑想に耽る事が出来る空間となっているのではないかと考えました。(浦井)
石川県伝統産業工芸館 展示デザイン:橘田洋子
- 企画展「Decoration~加賀象嵌の軌跡、受け継がれる技」を見学しました。江戸時代加賀藩前田家の武家社会の発展とともに栄えた「加賀象嵌」の伝統工芸と現代における新しい境地、金沢独自の華やかさが加えられた、とても魅力的な展示会でした。(池本)
金沢市立玉川図書館 建築設計:谷口吉郎+谷口吉生
- 敷地内で「外で遊ぶ」「自然を感じながらベンチで休憩」「図書館へ行き本を読む」といった行為が多様にでき、何人かで訪れても、それぞれ個々のしたい行動をとることができます。自然に囲まれていて開放的であり、足を運びやすい図書館であると感じました。(市井)
- 図書館2つを同じ日に見ることで比較できたことが印象的でした。玉川図書館は一見昔のレンガ造りの建物かと思いきや、裏側に回ると一面大きなガラスの窓が現れ、昔の建物を生かしつつ、現代の図書館として使いやすいように工夫していました。同じ金沢市の図書館ですが、ここまで大きな差があるとは思っていなかったです。(太田)
9月14日(水)二日目 行程:
妙立寺~にし茶屋街~長町武家屋敷・野村家~十代大樋長左衛門窯大樋美術館~柳宗理記念デザイン研究所(金沢美術工芸大学)~ひがし茶屋街
妙立寺(忍者寺)
- 外観からは3階7層という大掛かりな内部とは思えないほど普通なお寺で驚きました。当時の幕府から怪しまれないよう注意を払って建てられたことが窺えます。内部はとても複雑で、どことどこがつながっている、接しているという感覚が正常に働かなくなるような感覚でした。(太田)
十代大樋長左衛門窯大樋美術館
- それぞれの漆器の特徴、色使い、当時の時代背景からの違いなどとても奥深いと、改めて知ることができました。特に、大樋先生からのレクチャーはとても刺激的で、多くの経験を積んだ人の言葉はとても心に染みるなと思いました。後期の授業では陶芸を履修しているので、今回のことを生かせたらと思いました。(池本)
- 「やりたいことが3つあったとして、すべてやっていたら最終的にひとつのものになるかもしれない。逆に、ひとつをずっと突き詰めていたら、3つになるかもしれない。」なんだか聞いたことがありそうでなかった言葉に、様々な可能性を想像し、そういう考え方もあるのだなあと思いました。(伊藤)
- 伝統を受け継ぐことを体現している方のお話はとても貴重な体験でした。ただ受け継ぐだけでなく新しいことに挑戦する中で、伝統の要素を守っているのだと知りました。陶芸だけでなく多方面で活躍する職人の方というのが新鮮でした。私たちにもわかりやすい解説で、人を惹きつける魅力を持った方だと感じました。一緒にお茶をいただく緊張感は私にとって今までにない経験となりました。(浦井)
柳宗理記念デザイン研究所(金沢美術工芸大学)
- 明るい部屋にインテリアや雑貨が並び、それまで見てきた歴史あるものとは一転、まるで雑貨屋かモデルハウスのような内観で、想像していたものとは大きく異なったことに驚きました。それぞれの場所に置かれた雑貨の置き方や色の使い方など、インテリアの面で学ぶことの多かった場所でした。(太田)
- インテリアや家具に対しての考えやデザインがとてもユニークで刺激になりました。使用する側のことをしっかり考え作られているのが素直にすごいなと感じました。それが今でも愛され、長く使われている理由なのだと知ることができました。もう一つ刺激を受けたものが、金沢美術工芸大学の学生の姿です。私たちには作りえないアートを学生たちが産み出す光景。それは「デザイン」を追い求めていく私たちと同じ“仲間”として目に映りました。そんな仲間の人たちが生き生きとデザインに取り組んでいる姿は本当に刺激的でした。(中野)
ひがし茶屋街
- 道幅が狭い道路がぐるりと1周するように伸びていて、建物も暗い色が多かったせいか、かなり大人っぽい雰囲気だと感じました。店も金箔の専門店や和雑貨の店、お麩のお店など歴史のありそうなお店で、正直扉が閉まっていると中に入りづらい雰囲気の店もありました。夜は暗い街並みのなかに明るいオレンジの街灯がともり、幻想的な景色でした。街灯のデザインも普段わたしたちが目にするような味気ないものではなく、細かい装飾の凝ったデザインのもので、そこも町の雰囲気を壊さない工夫だと思いました。(太田)
9月15日(木)三日目 行程:
兼六園~金沢漆器能作 蒔絵体験ワークショップ~金沢21世紀美術館~しいのき迎賓館~JR金沢駅~東京
兼六園
- 印象に残ったのは、「徽軫灯籠(ことじとうろう)」です。徽軫灯籠は足が二股になっていて、琴の糸を支える琴柱に似ていてその名がついたと言われています。また、この灯籠は水面を照らすための雪見灯籠が変化したものです。手前に架かる虹橋と傍らのモミジの古木との三位一体となった風景はとても美しく、まさに兼六園のシンボルでした。(今野)
金沢漆器能作 蒔絵体験ワークショップ
- 「見る」「聞く」だけでなく「体験する」ことで、職人さんたちの技術の高さは果てしないと感じました。ひとつひとつ丁寧にやり方を教わりましたが、粉がはみ出てしまったり上手く重ならなかったり難しかったです。決まった絵柄でも体験した全員の作品はそれぞれ違い、その人らしさや意外性が現れていてとても面白かったです。(市井)
- 伝統に対する誇り。そしてその中にどれだけ自分の色を出していけるかという、もの作りに対しての熱い思い。伝統を守る人として、ものを産み出す人として、なんてかっこいいのだろうと感じました。思いを込めて作られた“もの”は形としてこの世にずっと残り、作り手の熱い“想い”は伝統として受け継がれていく。本当に、本当に素敵なことだなと感じました。(中野)
金沢21世紀美術館 建築設計:妹島和世+西沢立衛/SANAA
- 3日間で一番おもしろかった場所です。幻想的な場所が1つ1つ、隔離されていて自分のための居場所があるみたいでした。作品にはしっかり意味があって、納得したり、疑問を抱いたり、不思議な場所でもありました。(金子)
- 本当に面白いと感じられるのはアートの中に入ってアートそのものを「体験」「体感」できるということです。自分はアートを楽しんでいるはずなのに、いつの間にか自分はアートの一部になっている。なんとも不思議で、面白い感覚を味わえました。こうしたアートと人をつなぐという考えはなかなか思いつくものではなく、すごいなと感心したと同時に素敵な考え方だなと思いました。(中野)
フィールドワーク全体の感想
- 毎日が貴重な経験でとても刺激的で、たくさんの事を学ぶことができました。建物見学はもちろん、お昼ごはんや夕ご飯でも、歴史のあるお店やとてもきれいなインテリアのお店で食事ができ、とても楽しかったです。今後は出かけるときに建物などをもっと意識して学んでいきたいと思いました。(新井)
- 以前から和に関するものに興味があり、いつか伝統工芸に触れてみたいと考えていました。今回、金沢で漆器・蒔絵に触れるなかで、日本の伝統工芸に関してより興味が湧いてきました。今までは焼き物の種類も名前もわからないままでしたが、これを機に、知識を増やしていきたいです。先生の解説を聞きながらまわることで、自分だけでは見逃してしまうところを発見でき、勉強になりました。先生方が何を考えて、取り入れるのか、すこしでも知ることができるよい機会でした。(浦井)
- 和と洋が混合されていて、金沢でしか見ることのできない建物や風景を見ることができ、とても勉強になった三日間でした。体験・見学をする中で先生方や金沢のことをよく知る方々から色々な話を聞き、今の自分を見直したり、将来のことを考え直したりなど自分の人生で大切な時間を過ごすことができました。フィールドワークで学んだことを今後に生かしていきます。(大貫)