不思議なお香の話

国際日本学科 木内 英実

皆さんはお香の香りは好きですか? お墓参りの際のお線香の煙はむせてむせて嫌い、という方が多いのではないでしょうか? いやいや、香道(茶道、華道と同じく香をききわける雅な習い事)を楽しんでおり、生活の一部に香がありますよという方はごく一部のことと思います。好きな人のつけていた香(水)が記憶に残ることは皆さんもご存じですね。

暗い話で恐縮ですが、ここ数年で両親を相次いで亡くし、実家が寺院であることから、二人の供養にと両親とご縁が深かった寺院関係者より、さまざまなお線香をいただきました。その後、事あるごとに香を焚いて両親の冥福を仏前に祈っています。いただいたお香の中の一つに、京都の五重の塔で有名な東寺でのみ販売されます「風信香」という線香がありました。このお香の名前は真言宗の開祖空海が天台宗の開祖最澄に宛てた手紙「風信帖」に由来します。

ところで父には過去、四国八十八か所遍路巡礼に出かけた際に、ある民間宗教家の女性(そのころ60代)と十八番札所で出会うというご縁がありました。その後、その方が実家の寺に参拝や護摩供養にお越しになる中で、実家寺院の檀信徒になられ、その方が逝去されたのちには遺言により、その方がお祀りされていた仏像約10体、弘法大師像1体を実家寺院の薬師堂2階でお祀りすることになりました。

一般的には仏像ですが私の価値観に基づき以降、仏像を仏様と記すことにします。昨夏、父が亡くなったことを一つの契機に、その宗教家のお嬢様から、お母様と私の父が出会った十八番札所のお寺に実家寺院でお預かりしていました仏様たちを寄進したいというお話がありました。薬師堂2階は住職と同居家族、お寺の世話人さんしか足を運ばない場所ですので、多くの人の祈願を受け止めるという仏様本来の働きを考えますと、全国から参拝者が訪れる四国の遍路巡礼の寺院にお祀りされるのが仏様の喜びではないかと思え、仏様の引越しのお手伝いをすることにしました。

仏様へお別れのお経をあげた後、梱包作業を行い、仏様たちは四国徳島県へ旅立っていきました。仏様が旅立った翌日、不思議なことが起きました。早朝の行として脇本尊の薬師瑠璃光如来にいれたてのお茶をお供えしお経をあげるために薬師堂2階にあがると、何とも形容しようのない甘いフローラルな香りが漂っていたのです。仏様たちが去った後の残り香? と不審に思いましたが、その後2、3日間漂い続けた芳香に薬師堂2階に上がるたびに癒され不思議なこともあるものだとそのことを穏やかに受け止めました。

その週末のことです。両親の法要を行うために、東寺よりいただいた「風信香」を用いることにし焚き始めましたところ、仏様が去った後の薬師堂に漂っていたあの芳香が「風信香」の香りであることにはたと気づきました。旅立っていった仏様の中には弘法大師像もありました。ああ、あの芳香は弘法大師様からの「無事に徳島の十八番札所のお寺に落ち着いたよ」ということを知らせる手紙だったのだなと納得した瞬間でした。

香りの手紙、なんて粋な弘法大師様、と仏様をお祀りしお守りすることの喜びを感じた不思議な出来事でした。皆さんには香りにまつわる不思議な経験はありますか?

以上

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