『私の宝物絵本』

ここに、100年以上前の古い本が2冊あります。同じように見えるかもしれませんが、開いてみるといろいろな違いに気づきます。

たとえば、2冊の本では文字の位置や形がところどころ違います。昔は活版印刷といって、金属製の文字や模様を組み合わせたものを、紙に押しつけて印刷していました。そのため、しばらく間をおいて刷り増しするときに押す場所がずれたり、押し忘れたりすることがありました。また、印刷の色も微妙に違います。これは、絵を銅版画で印刷するときに、絵を再現するために必要な数の色を、1色ずつ重ねていったからです。
絵本が作られるようになったのは19世紀のことです。色のついた絵を印刷するには高い技術が必要だったため、それまでは作られていませんでしたが、精密な印刷技術で知られたエドムンド・エヴァンスという彫版師が、3人の有名な画家に声をかけたのが始まりです。その3人の画家の1人、イギリスのウォルター・クレーンの作品がこの『BABY’S BOUQUET』という童謡絵本です。

もう一度2冊の本の表紙を開いてみましょう。どちらにも手書きのサインがあります。片方は、1906年に母親から5歳になった息子へ、もう片方も1918年に誰かが誰かに贈ったもの、という内容です。
電子書籍などの登場で、同じ本を世界中のどこでも読むことができ、とても便利になりました。でも、この本のように、たまたま古書店で見つけて買ったもので、遠いイギリスで作られたそんなに数も刷られていなかっただろう本が、100年かけてこちらへ渡り、その間の歴史を刻み今自分の手元にあるというのは、とても不思議な感じでおもしろく、素敵なことだなと感じます。

(田澤秀司)

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