イギリス・マンチェスターを訪れて
2015/04/20
三月末から四月にかけてイギリスのマンチェスターへ行ってきました。マンチェスター市立美術館(現地名:マンチェスターアートギャラリー)で私のデザインした竹のスツール「WEAVE」が収蔵・展示されることになり、展覧会のオープニングに合わせてレクチャアをしてきたのです。このマンチェスターアートギャラリーは、1824年に開館した歴史ある美術館で、19世紀の英国絵画コレクションや数多くのラファエロ前派の絵画から現代工芸やモダンデザインの作品までを収蔵していることで有名です。
「Eastern Exchanges: East Asian Craft and Design」と題されたこの展覧会は、東アジアの日本・韓国・中国における工芸とデザインの過去・現在・未来を紹介するという内容で、今回収蔵された私のスツールは、アジア特有の伝統的な木質系材料である竹を環境に配慮したサステイナブルな素材として現代的なデザインに置き換えたことが評価され収蔵展示されることになったものです。
4月1日のプレビューには、ロンドンやヨーロッパ各地から美術やデザインのプレス関係者が、そして夕方のレセプションには大勢の美術関係者やデザイナーなどが集まりました。ヨーロッパには殆ど自生していない竹ですが、専門的な知識や関心を持っている人もいて、会場では竹について多くの質問を受けました。また、翌日のスライドレクチャアにも大勢の一般市民が聴きに来てくれて、ヨーロッパにおける環境問題に対する関心の高さを感じるとともに、イギリスがアーツアンドクラフトの発祥の地であることと関係があるかどうか判りませんが、日本と比べてイギリスの日常生活の中におけるアートや工芸デザインの位置付けが高いことを強く感じました。
ロンドンの北西部に位置するマンチェスターは、日本ではサッカー選手の香川真司が最近まで在籍していたサッカーチームがあることで有名だと思いますが、みなさんも世界史で習ったようにもともと産業革命時代に綿工業で大きく発展した工業都市で、wikipediaによるともともとこの地方は雨が多く湿潤な気候が綿花栽培に適しており、蒸気機関による紡績の機械化により大きく発展したとあります。私が訪れた時期も、日本では桜満開のニュースで盛り上がっていたようですが、現地では毎日一度は必ず雨が降り、気温も一桁台で寒い日が続きました。それでも一日中降り続くということはなく、街の中心部は適度な広さなので、自分の脚で歩いて廻ることも不可能ではないためその都市のスケール感が心地よく、また第2次大戦ではドイツの爆撃により大きな被害が出たそうですが、古い街並みや建物が修復されて残っているため、歩いていると時々ハリー・ポッターの映画に出てきそうな古い建築空間を体験することもできます。街並み全体としては、ロンドンのような明るく瀟洒な感じとは異なり、やはり工業都市らしく質実剛健というか重厚な印象をうけました。
今回の旅行で特に印象に残ったこととして、イギリスでは有名な大英博物館を始め殆どの美術館や博物館などの公共施設が無料で入場出来るということがあります。そしてどこの入口にも透明樹脂で出来た大きな募金箱が置かれており、その中に沢山の募金が入っていました。施設の維持や運営は、その市民からの募金や寄付と税金で賄われているということです。私は、あの大航海時代に地球上のあらゆるものを収集(収奪?)・分類・記述し博物学を確立したイギリス人の、文化財の公共的価値に対する考え方の顕れを感じ、また貴族制度や階級制度が残るイギリスの「ノウブレス・オブリージュ」の思想にもつながるのではないかとも思いました。
今回のマンチェスター旅行は、展覧会への参加という目的があったためあまり自由に時間が取れませんでしたが、それでもイギリスの伝統と革新が融合した文化の魅力の一端に触れることが出来た気がします。
是非、みなさんも一度訪れてみてください。
住空間デザイン学科・榎本文夫