【日本文化学科】「研究余滴」10

日本文化学科 皆川 義孝

和食文化について考える

近年、和食のユネスコ無形文化遺産登録や食育の観点から、和食が世界的に注目を集めている。しかし、食育の面では、栄養学や医学の観点から統計学的なカロリー計算での食事の指導など、外面的な食の指導に偏っている感がある。

日本の食文化の歴史を紐解くと、日本固有の宗教文化とは無関係とは言いがたい。現在でも、各地の神社などの秋祭りにおいて、神前に山海珍味をお供えすることを目にしたことはないだろうか。このお供えを神饌(しんせん)という。古来より、神饌は神事が終了すると、神前から降ろし、神饌を食べる宴会である直会(なおらい)が行われた。直会は、神と人が共食をし、神と人が交流・融合するため、さらに神を媒介とした人と人との絆を強めるために重要な場となった。祭りではないが、神を媒介とした人と人の一体化の儀礼として、今日でも神前結婚式における夫婦の“かための盃”は、祭礼における神饌の共食に通じるものである。

次に、神前への供物として神水がある。神水とは、神に供えられた水、古くは「よるべの水」ともいわれ、神前におかれた器に入れた水で、この水には神が宿ると考えられた。また神社にある井戸や池の水、さらには近くを流れる川の水なども、神の飲む水、神の使用する水として、神聖なる水として考えられた。これに関連した言葉として、「一味神水」というものがある。日本の中世では、国人一揆をはじめ、あらゆる身分や階層の人々が、ひとつの共通の目的達成の手段として、さまざまな一揆を結んだ。この特異な集団は、それに参加する全員が神社の境内に集合し、誓約などを書いた起請文を焼いて神水にまぜ、それを一同がまわし飲みしたという。この行為を「一味神水」というが、これは祭りの後の直会における神と人との共食にも相通ずる行為であったことがわかる。

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このように、古来、日本人にとって飲食する行為は、単なる栄養補給などではなく、日本固有の宗教文化と深く関わっていたことが指摘できる。さらにこうした視点は、これまでの和食研究においては、あまり顧みられてこなかったように感じている。現在、日本固有の宗教文化から日本の食文化について見直していきたいと考えている。

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