続・日本語の中の囲碁・将棋

松村 良

囲碁と将棋で共通する用語で、日常でも使われるものがあります。「先手を打つ」「先手を取る」という言葉は、一般的には「相手の機先を制して優位に立つ」(『日本国語大辞典』)ことですが、もともとは囲碁や将棋で相手よりも先に打ち始める(将棋の場合は指し始める)ことを「先手」と言います。相手に先手を取られた場合、自分は「後手」になりますが、「後手を引く」「後手に回る」という言い方もよく使いますね。
囲碁も将棋も、先手を取ったほうが有利です。囲碁の場合、先手が黒、後手が白を持つのですが、現在の日本のルールでは、黒は白よりも囲った「地(じ)」(盤面の交点の数と、取った相手の石の数を足したもので、囲碁はこの「地」の多い方が勝ちです)が七目(もく)多くないと勝ったことになりません。これにより先手と後手の差を出来るだけ小さくしようとしています。将棋は囲碁ほど先手が有利ではないのですが、それでもプロ同士の対局では5.5対4.5ぐらいの割合で先手有利だそうです。
何かをする時の決まったやり方を「定石(じょうせき)」と言いますが、これも囲碁・将棋両方にある言葉です。ただし、囲碁の場合は「定石」と書きますが、将棋の場合は「定跡」です。また、意味も少し違っていて、囲碁では「隅の打ち方における模範的な形」のことですが、将棋では「序盤から中盤にかけての、戦型ごとの模範的な指し方」を意味します。

最後に、囲碁が関係するエピソードから生まれた、みなさんもよく知っている言葉を取り上げましょう。それは「八百長(やおちょう)」です。八百長というのは「相撲、あるいはその他の競技で、前もって勝敗を打ち合わせておき、表面だけ真剣に勝負を争うように見せかけること」(『日本国語大辞典』)ですが、辞書にもわざわざその由来として「八百屋の長兵衛、通称八百長という人がある相撲の年寄とよく碁をうち、勝てる腕前を持ちながら、巧みにあしらって常に一勝一敗になるように細工したところから起こるという」と書いてあります。これは現在の八百長の意味とは異なり、つまりは「手加減をする」ということです。これで後世に名を残すことになっては、長兵衛さんが少しかわいそうですね。

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