仏教からきた日常の日本語 《開発》 ─人類を救う「開発」とは?!─

日本文化学科 千葉 公慈

最近のニュースでは、世界中の海底資源をめぐる開発の競争が激化しているとの報道がありました。実はこの「開発」という言葉も、仏教語に由来します。普段は「新商品の開発」とか「宅地開発」などと用いる言葉ですが、仏教語では「かいほつ」と発音します。
仏教語の「開発」とは「他人を悟らせること」、「内心に潜んだ仏への心に目覚めること」といった意味です。自分では気づかない、内に秘めた意思を目覚めさせ、眠っている心の力を掘り起こすことをいうのです。まさに天然資源と同様に、自分の中に本来そなわっている能力を新しく起動させるはたらきが「開発」の本義です。
ちなみに仏教では、自分が悟りを開き、仏となることを「成道(じょうどう)」といい、他人を悟らせることを「開発」といって区別することがあります。その意味でお釈迦さまは成道の後、多くの人々を開発されましたが、そうして仏弟子となった者たちも、さらに他者を目覚めさせる開発にはとても長けていました。

昔、30人の仏弟子たちが修行の旅をしていました。ある日、森深く分け入ったときのことです。恐ろしい500人の盗賊があらわれると、森の神に犠牲として命を差し出すように迫ってきました。すると仏弟子のひとり、サンキッチャというわずか七歳の少年僧が名乗りを上げました。彼は盗賊たちを前に堂々と坐禅を組み、深い瞑想に入ったのです。たちまち盗賊たちは襲いかかりますが、なぜか刀が曲がったり、柄が裂けてしまったりしたのです。この様子に恐れおののいた盗賊たちは、自分たちの非を詫びて、その場で彼の弟子となったということです。(『法句経註』第八)
こうしてわずか七歳のサンキッチャから、人間としての本当の力強さを知った盗賊たちは、生涯仏道修行に励むこととなりました。彼もまた真の心の開発者といえるでしょう。

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