道元禅師のことば【第6回】
2024/11/18
「峰の色 渓のひびきも みなながら わが釈迦牟尼の声と姿と」
道元禅師『傘松道詠』より
山の姿にも釈尊の姿を見、谷川のせせらぎに仏の説法を聴くというのは、日常の私たちには理解できないことかもしれません。しかしありのままの自己を見つめ、この「自己」へのとらわれから解き放たれたとき、あらゆるものからの気づきがあるのです。道元禅師は「自己をわするるというは(自我意識を捨て去るならば)、万法(あらゆるもの)に証せらるる(気づかされる)なり」と説いています。
荒井由実さんの歌に「やさしさに包まれたなら」という曲があります。子どもの頃には見えたものが大人になって見えなくなってしまったけれど、「やさしさに包まれたなら きっと 目にうつる全てのことは メッセージ」と歌い上げていますが、普段は気づかずとも、ふとしたきっかけですべてのものからのメッセージを受信できる一瞬があるのではないでしょうか。
むろんすべてのものからのメッセージといっても、山水のような美しい自然ばかりではありません。
我々を取り巻くのは、病気やつらいこともたくさんあります。しかし病気が体の悲鳴のサインであるように、苦しみや悲しみが我々に大切なことを教えてくれるとも言えます。
ある学校でおもしろいおもちゃの車を見ました。
その車は前から風を当てると風に向かって進むのです。普通は風に吹かれればその方向になびくのですが、その車は風を受けると風車がまわり、その力がギアで変換されて前進するのです。それを見て気づきました。苦しみや悲しみは自分自身を深く見つめ直すチャンスでもあり、その逆境をプラスに転じる心のギアが私たちに大切ではないのかと。