道元禅師のことば【第5回】

ただ今日今時ばかりと思うて時光を失わず学道に心を入るべきなり。
『正法眼蔵随聞記』より

近年医学が発達し長寿遺伝子なるものが発見され、将来的には百二十歳くらいまで寿命を延ばすことが可能だとか。長寿はみんなの願いです。しかし、だからといって六十歳で亡くなった人の人生が百二十歳生きた人の半分の価値ではありません。

吉田松陰や坂本龍馬は三十歳そこそこの人生でしたが、その志は今も郷土の誇りとして輝きを放っています。もし百二十年も生きられたとしても、暇つぶしの時を重ねていたならば、それは松陰や龍馬に及ばないのではないでしょうか。物理的な時間ではなく本当に生きた時間が問われているのです。

人生は八十歳で約二万九千日。確かに数字的には今日の一日は二万九千分の一ですが、今日の私の「いのち」は二万九千分の一の「いのち」ではありません。生きているというのは、今ここにある私の「いのち」を生きるだけです。しかし人は過去の栄光にしがみついたり、トラウマに縛られたりで、要するに過去に生きてしまいがちです。

だからこそ本日ただ今の「私のいのち」を生きることが大切なのですが、それはなにか特別なことをするのではありません。禅で「平常心是道」と言いますが、ご飯を感謝しておいしくいただき、学生・生徒として今日の勉強や部活などに励むことに他ならないのです。