住空間デザイン学科より、秋の夜長におすすめ図書をご紹介

2年生の基礎ゼミⅢでは、空間デザインにかかわる本を読み、感想文を書く夏休みの宿題があります。街の本屋さんで吟味したり、大学の図書館で借りたりしながら、幅広い分野の本にチャレンジしてくれています。
ここではその中から厳選して、4名のおすすめ本とその感想をご紹介します。
ぜひこれからの秋の夜長、学科内の学生に限らず、いろいろな方に読んでいただくきっかけになればと思います。

住空間デザイン学科特任教授 橘田洋子

「旅はゲストルーム -測って描いたホテルの部屋たち-」

住空間デザイン学科 川村咲春

タイトル:旅はゲストルーム -測って描いたホテルの部屋たち-
著者:浦一也
出版:光文社(知恵の森文庫)

私は、建築家でありインテリアデザイナーでもある浦一也氏が著者の『旅はゲストルーム』という本を選びました。この本を選んだ理由は、表紙にあるホテルの見取り図の美しさと、帯に書かれていた一言に興味を持ったことにあります。
まず帯には「こんなホテルの本、見たことない!」とだけ書かれていて興味がわきました。手に取って中を見てみると、様々な国のホテルの見取り図がすべて著者の手書きで描かれていて印象的でした。素晴らしいと思ったのは、著者が実際に訪れたホテルで実測しているのでディテールがしっかりしていたり、細かなところの寸法や素材まで描かれていたりするところです。写真を見るよりも多くの情報を得ることができ、著者がどこに感動したのか読み解いていくことで、そのホテルをデザインした人の意図までわかってくるようで、本当に素晴らしいと思いました。また、このスケッチがホテルのペーパーに描かれているところが良いなと感じました。写真で見るだけでなくそのホテルに行ってみたいと思わせるスケッチはさすがプロだなと思いました。
また建築インテリアを学んでいる学生としては、こういった日ごろの観察力をお手本にしたいと思いました。著者は客室につくとまず、部屋が乱れないうちに実測して、細かなものまで正確に描いて着彩までしていて、その努力は素晴らしいです。こういった日ごろの努力があってこそ、新しいアイディアが生まれたり、発見があったりするのだと思います。建築インテリアを学んでまだ一年半の私としてはこういった努力をしていきたいなと思わせてくれる本でした。この本には一年の時に出会いたかったと思ったので、ぜひ一年生に読んでもらいたいなと思いました。

安藤忠雄 仕事をつくる -私の履歴書」

住空間デザイン学科 坂本莉紗

タイトル:安藤忠雄 仕事をつくる -私の履歴書
著者:安藤忠雄
出版:日本経済新聞出版社

昨年、授業で安藤忠雄の住吉の長屋の模型製作やレポート課題を通じて、安藤忠雄という建築家に興味を持ち、その後NHK BSプレミアムで放送された「闘う建築家 安藤忠雄」を僅かであるがたまたま見ることができた。写真以外の安藤氏を初めて見て、本当に建築が好きな人だと、言動を通して感心したことを覚えている。安藤忠雄がどういう人間であるかもっと知りたいと思い、今回は彼の書籍を選んだ。事前にレポート作成時にインターネットを通じておおまかな性格や生い立ちは知っていたが、彼自身の言葉から知ることも新鮮で面白い。
安藤は中学2年生のとき、自宅の長屋を増築している、一心不乱に働く若い大工の姿を見て、建築という仕事に関心を持った。しかし、家庭の経済的理由と学力の問題から大学進学をあきらめざるを得なかった彼は、独学で建築を学んだ。京大、阪大の建築科の友人に依頼して、教科書を購入してもらい、彼らが4年間かけて学ぶ量を1年間で学ぼうと無我夢中で取り組んだ。夢を追いかける安藤を見守る母や友人、熱心に「数学は美しい」と指導してくれた先生など、安藤は周りの人間に恵まれていた。社会に出た彼は、建築を通して出会ったさまざまな人と出会い、たくさんのことを教えてもらったそうだ。「人のマネをするな」「建築は独創性と勇気だ。全力でやり切れ」等の言葉に励まされてこれまで仕事をやってくることが出来たと彼は言う。それらの言葉のように、彼の建築物は創造性に溢れ、賛否両論の建物もあるが魂が込められた力強い作品が多い。
印象に残ったことは、「人と対峙することを厭う人間が、『人々が集まり、対話する場』をつくりだすことなど可能だろうか。」という安藤の言葉だ。スタッフ同士コミュニケーションを取らず、ひたすらコンピュータと対話するだけでは良いモノをつくれるわけがない。この言葉から、普段の学校の授業や課題で他の人と意見を出し合う癖をつけておこうと思った。また見習いたいと思ったことがある。それは、夢を諦めない信念と、努力、「面白いもの」に対する探究心だ。私は2級建築士の資格すら持っていなかった彼の、働きながらも時間を削りに削って、1級建築士までも一発合格するという努力と覚悟に感銘を受けた。気力、集中力、目的意識。このような強い思いを、建築関係以外でも感じたことがない私は、もう一度自分自身のやりたいことや現状を見つめ直さなければならない。

「仮設のトリセツ -もし、仮設住宅で暮らすことになったら-」

住空間デザイン学科 澤田朱里

タイトル:仮設のトリセツ -もし、仮設住宅で暮らすことになったら-
著者:岩佐明彦
出版:新潟大学岩佐研究室

東日本大震災が起きてから日本では大きな地震が相次いで起こっています。東京にも大きな地震がいつ来てもおかしくありません。日本は地震の国と言われていますが、最近では異常気象で洪水のため家が流されてしまうなどの災害が頻繁しています。図書館にある様々な本の中でも目に入ったのが「仮設のトリセツ」でした。いつか自分が災害で避難所や仮設住宅で過ごすことがあっても、困ることがないようにしたいからです。私は仮設住宅について詳しく知りません。そのため不自由な生活になった時にその場ですぐ対処できるようになるための良い機会だと思いました。
仮設住宅は一般住宅と造りが全く違います。仮設住宅は大量かつ迅速に建設することが求められているので、一般の住宅と比べて建設工程が少ないそうです。そのためか、実際に仮設住宅で暮らす人は暑さや寒さ、収納場所、音、結露等の問題に悩んでいるそうです。隣の部屋の人のいびきが聞こえてきたり、気を遣うことが多々あり、たくさんの問題や特徴があることがわかりました。しかしながら、そこで暮らしている人たちは部屋をデコレーションして愛着を持てるような家にするなど、たくさんの工夫をしているそうです。この本には他にも収納場所をいかに多く取り入れるかなど、アレンジが多く紹介されていて勉強になりました。仮設住宅に入居することになっても、このように工夫をすれば少しでも過ごしやすくなることがわかりました。様々な情報を知っておくことが重要なのだと思い知らされました。
中でも印象に残ったことは仮設住宅ではカラオケ大会やお祭り等、様々なイベントが催されていることです。仮設住宅で暮らす人の困っていることに「退屈」が挙げられていましたが、イベントが企画されているので幅広い年代の人とコミュニケーションが多く取れ、楽しく充実した生活を送れているように感じました。生活は変わっても周りとの関係は今まで通りで挨拶程度の関係だと思っていたので、イベントや周りの方との交流があり、仮設で過ごすイメージががらりと変わりました。
仮設住宅の経験をしていないので、まだ他人事のように感じることも多少ありますが、自分がいつ過ごすことになっても焦らず、収納や防寒等の工夫をすぐに出来たらいいです。また、今仮設住宅で暮らしている方たちに何か携われるようなインテリアなどを考えることも大切だと思いました。

「近代椅子学事始 武蔵野美術大学近代椅子コレクション」

住空間デザイン学科 中野菜月

タイトル:「近代椅子学事始 武蔵野美術大学近代椅子コレクション」
著者:島崎信
出版:ワールドフォトプレス

この本は第1章「近代椅子デザイン史観」名作椅子再考、リ・デザインの歴史、近代椅子の四大潮流の概念について、第2章は「近代椅子の四大潮流」近代椅子を調査していくうちに分かった「明式家具」「ウィンザーチェア」「シェーカーチェア」「トーネット」といった源流になる椅子の存在と、その影響下の椅子の流れについて、第3章は「名作椅子の座り心地」体圧分布シートを利用した、生活シーンを想定した座り心地検証の3章に分けられています。
その中で、イギリスの歴史学者アーノルド・トインビーの言葉が抜粋されていてとても興味深かったです。「過去を知らない者に未来を語る資格はない」。もちろんこれは歴史学者の言葉であり、椅子に直接当てはまる言葉ではありません。しかし椅子の歴史を紐解いていくと、椅子というものも歴史であることが分かります。そしてその流れを辿ると、近代の椅子の系統というものが技術的、思想的、造形的に3つに分類されるということが分かってきます。
またこの本を選んだ理由でもありますが、とても読みやすく写真も大きく掲載されているので、それぞれの3つの流れの根から分かりやすく歴史を見ていくことができます。技術、思想、造形等の流れを踏まえた各時代の卓越したデザイナー達によって近代の名作チェアが生まれたのだと思いました。
人間が使いやすいように人間の習性、形などを追及し、さらに形態の簡素化が進んでいます。デザインという分野が、デザイナーだけの手を離れて、科学者や物理学者にも広がっていて、座り心地が良い椅子だけが良いのではないとこの本を読んで私は感じました。
デザイナーのデザインは、突然現れるものではありません。私たちが世の中のものに影響を受けているのと同じように、なんらかの影響が混ざって新しいものがつくられていくのだと思いました。
歴史学者の言葉「過去を知らない者に・・・」にある通り、新しいモノを作るには、歴史を知ることはとても大切なことだと思います。

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