住空間デザイン学科より、秋の夜長におすすめの本をご紹介!

2年生の基礎ゼミでは、夏休みの宿題として、住空間デザインにかかわる本を読み、感想文を書いてもらいました。どの本にしようか大学の図書館で借りたり、本屋さんを巡ったりしながら、数多くの幅広い分野の本にチャレンジしています。
ここではその中から厳選して、4名のおすすめの本とその感想をご紹介します。
これからの秋の夜長、学科内の学生に限らず、いろいろな方にぜひ読んでいただくきっかけになればと思います。

住空間デザイン学科特任教授 橘田洋子

『あの日からの建築 伊東豊雄』を読んで

住空間デザイン学科2年 石井彩

タイトル:あの日からの建築 伊東豊雄
著者:伊東豊雄
出版:集英社新書

建築とは一体何だろうか。建築と一言にいっても自分が好きな建物または自分が設計したい建物と多くあります。この本の中ではそのような伊東豊雄さんが思うことや感じられたことが書かれており、私たち自身に建物のデザインや感性を考えさせられる本となっています。私がこの本を選んだのは『あの日からの建築』というタイトルに目がいったからです。あの日とはいつなのか。そう思わせるようなフレーズに私はこの本に決めました。

中身を見ていくと『あの日からの建築』というのは私たちがとても印象に残っている東日本大震災の日のことでした。地震だけに止まらず津波の被害も出てテレビやラジオで報道されていたのが今でも思い出されます。津波の被害により、多くの家が流されていくのを見たときはとても心苦しくなりました。その後の報道でも流されたことにより家を失った人たちの様子を見て、何かしてあげたい。と思った私がいました。作者である伊東豊雄さんははじめに震災が起きてから幾度となく被災地に足を運んだと書かれていました。その度に『自分がつくってきた建築は何だったんだろう』と考えていたそうです。たしかに、震災の影響で多くの建物が崩れているのを見ると思わず考えさせられてしまうと思います。私たちは人のための建築をしていきたいと考えていますが、このような震災の被害に直面してしまうと不安にもなってしまいます。けれども、不安とともにこれから学んでいく建築の見方を自分自身で考え、変える力をこの震災を通じて教えてくれたのではないかと私は思います。
震災を通じて伊東豊雄さんは『精神の安定を得る場所が必要ではないか』と言っています。たしかに、震災に遭って人は心細くなったり不安になったりします。そんな状況の中で安心できるのは人が集まる場所があることだと思います。食料や水なども必要不可欠かもしれません。けれども一人ではないという不安な思いを感じさせない空間もやはり必要なのだと思います。

震災を通して、今、建築を学んでいる人、あるいは建築の設計を考えている人たちがこれからの中で大切なことは人のことを思って、自分には何ができるかだと思います。自分は何もできないとは思わずに少しでも人のためにできることがないか、学ぶことはないかと思うことが大切だと私は思います。

キッチンからつながる家族の絆

住空間デザイン学科2年 佐久間汐莉

タイトル:ここがわが家でいちばん大事な場所 家族のキッチン&ダイニング
著者:女性建築技術者の会
出版社: 亜紀書房

私は、『ここがわが家でいちばん大事な場所 家族のキッチン&ダイニング』という本を読みました。なぜこの本を選んだかといいますと、2学年になり模型を作る機会や設計図を書く機会が増えました。普段毎日見ているキッチンとダイニングなのに実際自分で設計しようとすると使いづらいキッチンや平凡なダイニングしか作れませんでした。なので、この本を読んで知識をつけたいと思い読みました。 本の中身を見てみると1つ1つの家に項目分けがされていて読みやすいです。第1章では、わが家の暮らし方に合ったLDKプランや、第2章では、余裕をもって子育てができるキッチン&ダイニングなど自分が設計する家にあうキッチン、ダイニングのヒントが見つけやすく、絵や設計図もついているので見やすく理解しやすい本です。

特に印象に残ったのは、1階から屋根裏まで貫く1坪の吹き抜けLDが書かれていた項目です。まだ小さいお子さんと触れ合いながら生活ができて効率よく家事ができ、陽射しあふれるLDを目指した家の話です。吹き抜けがあるおかげ光や風だけではなく家族同士の気配も感じられると書いてあり、子供の就寝や最近聴いてる音楽なども感じることが出来るそうです。家族と顔を合わせなくても家族の気配が感じられるということは、家族とつながっているということなので良いなと印象に残りました。1階で料理していると2階まで匂いが届き、そろそろご飯の時間と気づき自分から子どもが手伝いに来たりと、呼ばなくてもわかるサインが吹き抜けにはあるものだと勉強になりました。キッチンは対面型にし、遊んでいる子どもたちの様子が見えるようにしたと書いてあり、私はキッチンとダイニングは別々、背中を向いているものだと考えていたので印象に残りました。子どもの顔を見ながら料理ができるのは、親も安心し、子どもも喜ぶと思いました。

この本を読む前は、私は知識が足らず、キッチンと言ったら一つのものしか想像することが出来ませんでした。しかし、この本を読んでからどのようにキッチンを設置すれば家族と触れ合いながら料理が出来るのか、2世帯住宅だったらどのようにしたら気兼ねなく暮らせる工夫された家が設計出来るかなど勉強になりました。これからも本や実際の物件を見て勉強しようと思いました。

『デザインとものづくりのすてきなお仕事』を読んで

住空間デザイン学科2年 関根由美花

タイトル:デザインとものづくりのすてきなお仕事
編著:矢崎順子
出版社:ビー・エヌ・エヌ新社

この本は会社や自宅、また自由なスタイルで働く女性デザイナーの仕事場や仕事内容を探るものである。なぜこの本を選んだかというと、題名に惹かれたからである。マイナスなイメージを持ってしまう「仕事」という言葉に、「すてきな」がつくことで、デザイナーは一体どこでどんな仕事をしているのかが気になったのだ。

私は、この大学に建築関係の勉強を目的として入った。建築一筋で頑張っていこうとも思っていた。しかし、ほかの大学にはないような豊富なプロダクトの科目を通して、「デザイン」というものに強く興味を持った。そして、デザインといってもファッションデザイン、陶芸デザイン、家具デザインなど、様々な分野があることが分かった。

この本を読んで特に印象に残った点は、どのデザイナーも働くスタイルは違っていても、仕事場自体がその人の作品の世界観を表しているということだ。たとえばイラストレーターの東ちなつさんの例を挙げる。東さんの作品はリボンやお花を身にまとった女の子などのとても可愛らしいイラストである。そこで仕事場を覗いてみると、その空間そのものが東さんの作品であった。絵を描く道具だけでなく、壁に飾られたイラストや小物、可愛らしいマスキングテープやキャンディーの包み紙、そしていつでも使えるようにと棚の側面にお花のように吊るされた何色ものリボン。可愛らしいものに囲まれることで、東さんの素敵な作品が日々誕生しているのだ。絵の上に偶然落としたおはじきが意外にも効果的で、それ以降作品に使うようにもなったそうだ。
これに対して、フォトグラファーの鏑木希実子さんの仕事場はいたってシンプルである。しかし、その中にもこだわりの手作りの家具があり、ちょっとした小物が楽しい空間を演出してくれている。作品もその空間通りである。素朴な中にどこか楽しさを感じるのだ。

この他にもたくさんの仕事場を見て、デザイナーにとって一番大切なことは自分の好きなことをすることだということが分かった。好きなことでなければ続かない仕事だろう。そして様々なことに興味を持つということである。東さんのおはじきの例のように、偶然の発見も大切にしなければならない。自分のしたいこと、世界観を日々表現しようとすることで、素敵な作品が生まれるのかもしれない。

『デザインの素』を読んで

住空間デザイン学科2年 藤井鮎子

タイトル:デザインの素
著者:小泉誠
出版社: ラトルズ

わたしは小泉誠によって書かれた「デザインの素」という本を選びました。この本は著者である小泉誠のデザインに対するこだわりと考察が書かれた本で、写真をもとに著者がこだわり等を解説してくれる本なので、本を読み慣れていない人でもよみやすい一冊となっています。自分の思うままに自由に作った作品を挙げているわけですから、デザイン系を学んでいる私たちにとっては憧れの対象でもある人の書いた本であって、読み終わった感想はただ単純に、「うらやましい」です。デザインについてはまだ学び途中の私たちでも、作りたいと思い描いている作品はあります。それを実際につくり、満足し、さらにその作品に需要があるのがデザイナーとして理想と思うカタチで、憧れで、そしてうらやましい存在です。それをいともたやすく行うのがこのデザイナー、小泉誠なのです。

デザイナー小泉誠は師匠でもある原兆英・原成光両氏からデザインについて学び、1990年に初めてコイズミスタジオ設立をしました。デザインしたものは小さいものでは箸置きから、建築まで、生活に関わるデザインのすべてを手掛けます。
数々ある作品のなかで、今回特にわたしが気に入った作品は「tetu」です。ただの鉄瓶なのに存在感をはなち、なおかつ派手すぎない美しいフォルムの渋い風合いをもつ作品です。特に小泉なりのこのヤカンのこだわりは400年間もの歴史をもつ南部鉄で、南部鉄ならではのずっしりした重量感が見た目からもかんじとれます。また、この鉄瓶から沸かされたお湯には鉄分も溶け込むため、貧血気味の人やお年寄りにむけた作品だそうです。見た目だけではなくその素材のもつ味、性質を生かした柔軟な発想がよく表れたこの作品は、彼の作品のなかでも特に魅力的に感じました。
そして彼のインテリア、空間をつくる作品の中興味をもった作品は「おまんじゅう 菜の花」です。これはおまんじゅう工場に作られたわずか1坪の店舗で、シャッターの代わりに大きな引き戸が仕込まれていたりと、遊び心あふれた面白い作品です。この遊び心が一日の大半を閉ざされた空間ですごすお店に明確なサイン効果を与えます。また、この引き戸に用いられる木材ですが、彼は木について思うことが多いらしく、人の時間と木の時間の関係が程よいと考えているようです。
本に書いてあった様々な作品のなかでも今回は2つをあげましたが、彼のデザインはまだ新しいものが増え続けています。その一つ一つにこだわりがあり、だからこそ彼の作品は賞賛され続けているのでしょう。

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