「涅槃会(ねはんえ)」に学ぶ理想の社会とは?! ─ブッダ「七不衰法(しちふすいほう)」の教え─

日本文化学科 千葉 公慈

シャカ族の王子として生まれたゴータマ・ブッダは、悟りを開かれたのち、各地を歩いて法(教え)を説かれる遊行の生涯を送られました。その活動の場はおもにインドのガンジス川の中流域であったと考えられます。

  • 開祖ゴータマ・ブッダ
    開祖ゴータマ・ブッダ

齢80歳を迎えたブッダは、いよいよ最後の旅に出られます。当時のインドの都、ラージギル(王舎城)を出発して生まれ故郷のカピラヴァスツを目指しました。その旅はおよそ350㎞にもわたる遙かなる旅でした。現在でも80歳といえば高齢ですが、今から2,500年も昔のことです。その旅の困難であったことは想像に難くありません。故郷を前にクシナガラという小さな村で旅路は終わることになります。このブッダ最後の旅は、『マハー・パリニッバーナ・スッタンタ(大いなる死)』という経典からうかがい知ることができます。

駒沢学園でも毎年2月15日に「涅槃会」を厳修していますが、現代に生きる私たちも、この行事を通して実に多くを学ぶことができるのです。ここではブッダが旅立ちに際して、理想的な国のあり方とは何かについて言及された、たいへん興味深い箇所を経典から紹介しましょう。

  • 涅槃図(宝林寺所蔵)
    涅槃図(宝林寺所蔵)

その当時、ガンジス川流域でもっとも強大な国家はマガダという国でした。マガダ王は、隣国で繁栄していた小国のヴァッジ族を攻め滅ぼそうと考えていたのです。困ったヴァッジ族の王様は急きょ大臣をラージギルの霊鷲山(りょうじゅせん)におられたブッダのもとに遣わして、その対応策を尋ねます。ブッダはその際、弟子のアーナンダを通じてヴァッジ族が小国ながらもなぜ繁栄しているのか、その秘訣を説かれたのでした。

つまり社会が滅びないための七つの要素、「七不衰法(しちふすいほう)」です。

  • 1.住民がしばしば会議を開いて、多くの人々が参集する。
  • 2.一致協力して会合し、決議した通りに行動する。
  • 3.旧来の法にしたがって行動し、風習を守っている。
  • 4.年長者を敬い尊び、彼らの言葉をしっかり聴く。
  • 5.女性や子どもに決して暴力をふるったり、強制することがない。
  • 6.その社会が守ってきた聖域の社(やしろ)を崇拝し、しきたりの供物を怠ることがない。
  • 7.道を学ぶ修行者たちを尊敬し、彼らを守り、また学ぶ者たちがよく集まる。

(千葉要約)

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  • ブッダを讃えるインド・アショーカ王の石柱
    ブッダを讃えるインド・アショーカ王の石柱
  • 説法するブッダ像
    説法するブッダ像

この七項目が守られているかぎり、ヴァッジ族は繁栄するから、たとえマガダのような大国であっても、決して彼らを攻め滅ぼすことはできないだろう、と説かれました。つまり仏教が考える理想的な人間社会の姿がそこに描かれているのです。

こうしてブッダは、しばらくラージギルにとどまられた後、わずかな弟子たちをしたがえて、いよいよ故郷への最後の旅がはじまるのでした…。

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