009:新潟県南魚沼・ものづくり体験ワークショップをしてきました。

お盆明けの8月17日から三泊四日で、家具デザインや立体織の授業を履修している3〜4年生の学生たちともに新潟県南魚沼市六日町でものづくり体験ワークショップ(以下、WS)を実施してきましたので報告します。

今回は、本学科で立体織デザインの授業をご担当いただいている南雲理枝先生とその御主人でソーシャルプロダクトデザイナーである南雲勝志さんの多大なご協力のもと、彼の出身地である六日町でのWSが実現しました。ここに改めてお礼を申し上げます。

このWSは、二つの体験を中心に計画しました。一つは、国内林業の現場を見学しその現状を学び、そしてその地域材を使ったものづくり体験と、実際に地元の木を使って作られた建築空間や家具の実例見学。そしてもう一つは国の重要無形文化財にも指定されている塩沢織物の制作現場の見学と体験です。今回のWSが単なる夏休みの見学ツアーで終わらないために下記のように目的を定め、学生たちに事前学習と参加への心構えを促しました。

WSの目的

『戦後、国の施策による拡大造林により大量に植林されながら、安価な輸入材の大量流通による価格競争により低迷している国内林業の現状を学び、山から切り出された丸太が製材され木材になる過程や、さらには越後の地域材である杉をその地域活性化に繋げていく地産地消の考え方や方法論について、実際に使われた実例を見ながら学ぶ。また、その地元の杉を使って実際に地域に役立つものづくりWSを行う。

また、日本の伝統的な織物の工房を見学することで、現代社会の大量消費を前提とする工業化された生産方法や、消費の欲望を産み出す手法としてのデザインによって生み出された「もの」で成り立っている資本主義経済社会の問題点を認識し、人々の生活(くらし)の中から生まれ、生活(くらし)の中で洗練されてきた伝統工芸における手づくりによるものづくりの良さを再認識する。

さらに、この体験を通して地域の人々と交流し、都市部への人口流出や市場経済の一極集中と人口減少や少子高齢化によって活力を失いつつある地方文化の新たな再生と活性化への糸口を、3・11の東日本大震災以降見直されつつある日本の自然素材を使った「てづくり・ものづくり」を手がかりにしてこれからの我々のするべきデザインについて考える。』

活動の様子を簡単にご報告します。

1日目(午前中雨、午後曇)

池袋9時発新潟行き高速バスで六日町へ。バスは3列シートなのでゆったりしていてとても快適です。昼過ぎに六日町に到着し、昼食を取ってから最初の目的地である(株)丸五へ移動しました。そこで南雲先生たちと合流し、製材所の社長から日本の林業の現状や製材の現場の説明を受け、工場を見学しました。そして、南雲さんから翌日に行う屋台についての説明を受けました。

今回制作する屋台は、3・11東日本大震災のとき全て津波で流されてしまって何もなくなってしまった岩手県大槌町に、あかりを灯し人々の集まれる場を作ろうと南雲さんがデザインして現地の人たちと一緒にボランティアで制作した物と同じものです。そのときの思いを学生たちにも受け継いで欲しくて今回の制作に選ばれました。

その後、近所にある民宿に移動し美味しい夕食を食べた後、翌日の屋台製作WSに備え早めに就寝しました。

  • 三列シートでゆったり・快適!
    三列シートでゆったり・快適!
  • 製材作業を見ています。
    製材作業を見ています。
  • 製材所で説明を受けています。
    製材所で説明を受けています。
  • 合掌してからいただきます。
    合掌してからいただきます。

2日目(終日薄曇、夕方から小雨)

朝9時から作業開始です。今回の屋台WSをしてくれる大工棟梁の山本さんから制作の手順の説明を受けてから制作開始となりました。最初は、慣れない道具と少々厳しい棟梁の指導に戸惑いながらも、だんだん慣れてくるにつれ作業も順調に進み出し、たまたまフランスからホームステイで来ていた同年代のシンディーとバリーも加わって、言葉は通じなくても同年代のよしみでプチ国際交流をしながら楽しくWSは進み、完成すると見えなくなってしまう床板の裏に参加者全員でそれぞれの思いを寄せ書きしたりしました。

午後はだんだん形ができて来て、そうなるとますます早く完成させたくなり制作の手が進みます。三時の休憩の頃にはほぼ完成形になり、その屋台を使ってスイカを食べました。

夕方からは、出来上がって「杉暖欒」と名付けられた屋台を使って地元の人たちや参加者全員で交流を深めました。

  • 棟梁から制作手順の説明を受けています。
    棟梁から制作手順の説明を受けています。
  • 年輪を数えています。
    年輪を数えています。
  • かんな掛け
    かんな掛け
  • コシヒカリのおにぎりで昼食
    コシヒカリのおにぎりで昼食
  • バリー(左)とシンディー
    バリー(左)とシンディー
  • スマフォを使ってプチ国際交流
    スマフォを使ってプチ国際交流
  • みんなで底板に寄せ書きしました。
    みんなで底板に寄せ書きしました。
  • 駒女チーム集合!
    駒女チーム集合!
  • 魚沼のコシヒカリの田んぼを背にスイカを食べる
    魚沼のコシヒカリの田んぼを背にスイカを食べる
  • 屋台が完成して記念撮影
    屋台が完成して記念撮影
  • 美味しい肉が焼けました。
    美味しい肉が焼けました。
  • 夜の交流会
    夜の交流会

3日目(晴ときどき曇)

朝から新潟の伝統工芸である塩沢織物の工房「やまだ織」の見学と体験です。塩沢織物にはいくつかの種類があり、国の重要無形文化財に指定されている苧麻(カラムシ)を使った越後上布、塩沢紬、本塩沢、夏塩沢等があります。染め方にも先染め、後染めなど様々な方法があり、多くの工程を経て出来上がっていく様子を見ながら説明を受けました。越後上布は、雪国らしく冬の一番寒い2月頃に雪晒しにより漂白することで、苧麻の生成り色のざっくりした手触りから柔らかな白のさらりとした風合いに変わっていくそうです。それほど手間を掛けて作られた越後上布の反物は、物によって五百万円にもなる、とのことでした。

制作の説明をうけた後、夏塩沢の着付けや染めの技法である墨流しなどを体験し、着付けていただいた着物を着たまま塩沢町の牧之(ぼくし)通りを散策し、中島屋で塩沢の歴史の説明などを聞かせていただきました。

午後は、昨年六日町駅前にオープンした「南魚沼市図書館」へ移動して、スライドレクチャアと見学を行いました。この図書館は、南雲さんが古いスーパーマーケットの建物をリニューアルしたもので、インテリアから家具まで地元の越後杉を使って作られています。図書館の講義室でスライドを見ながらソーシャルデザインについて話を聴き、皆熱心にメモを取っていました。

その後は、越後の銘酒・八海山の酒蔵が作った観光施設「魚沼の里」を見学してから宿に戻りました。

  • やまだ織の工房で説明を受けました。
    やまだ織の工房で説明を受けました。
  • 織の体験
    織の体験
  • 墨流しの体験中
    墨流しの体験中
  • 着物の着付体験
    着物の着付体験
  • モデル撮影会?
    モデル撮影会?
  • 牧之通りで塩沢の歴史の話を聞く。
    牧之通りで塩沢の歴史の話を聞く。
  • 図書館入口
    図書館入口
  • 図書館内部
    図書館内部
  • 南雲さんのスライドレクチャア
    南雲さんのスライドレクチャア
  • 家具も全部越後杉で作られています。
    家具も全部越後杉で作られています。
  • 根曲がり杉のベンチ
    根曲がり杉のベンチ

4日目(晴れときどき薄曇)

今日が最終日です。帰りのバスは午後なので宿の近くにある薬勝寺と越後の曹洞宗の名刹である雲洞庵を見学しました。薬勝寺にはなぜここにこんな名作が・・・、と思うような美術品が数多く所蔵されており、主な作品だけでも、絵画では藤田嗣治、中川一政、安井曽太郎、彫刻の高村光雲、高村光太郎、左甚五郎、書では、豊臣秀吉、伊藤博文、伊達政宗、松尾芭蕉、などなど国立美術館に収まっていてもおかしくないほどの作品を鑑賞することが出来ます。また、曹洞宗雲洞庵は室町時代に上杉憲実公により開創されたといわれ、日本一の庵寺(あんでら、尼寺のこと)といわれています。数百年以上は経つと思われる杉木立の中にある境内には、禅寺らしい静けさの中にも厳粛な空気が流れていました。

その後、昼食をとってから午後の高速バスで渋滞にはまることもなく夕方池袋に到着し、今回の楽しかったWSは無事終了しました。

最後に

このワークショップの旅は、とても盛り沢山の内容でしたが、南雲先生を始め多くの方々のご協力によりトラブルも無く無事終えることが出来ました。学生たちもいろいろなことを実際に体験することで多くのことを身体で学んでくれたことと思います。今回参加したのは3年生と4年生でしたが、これから就職活動や卒業制作があります。この経験を今後の作品作りや社会人としての仕事や生活に生かしてくれればと思っています。

住空間デザイン学科・榎本文夫

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