空間造形学科 2011年度フィールドワークレポート 京都リビングデザイン今昔 ─ 2つの離宮と伝統文化を体験する旅 ─

(佐藤 勉)

日本の伝統文化が今も街中に生き続ける京都。修学旅行でかつて訪れた京都とは一味違う、京都文化の本質に迫る旅。9月13日から16日の3泊4日で、京都市内の各所を巡ってきました。桂離宮と修学院離宮を中心に、伝統的織物から陶芸絵付け体験まで、太古から現在まで息づく等身大のリビングデザインを丸ごと体験し、建築・インテリアデザインに対する新しい視点を発見することが今年のフィールドワークの目的です。

 

1日目 織物工場見学と染色実習

京都市北部の西加茂にある川島織物セルコン工場は、創業1843年(天保14年)、1910年(明治43年)に室内装飾(インテリア)の分野に進出し、明治、昭和の宮殿の内装を手掛けるなどしている名門の繊維会社です。

染色工場、織物工場の順に、糸を染める工程、細やかに色を調合する技術者、手織りの緞帳制作から巨大な機織機械による織物製造過程など、説明を受けながら見て回ります。続いて工場に併設する織物文化館を見学。精緻で優美な帯や美術工芸織物、さらに日本で最初に室内装飾織物を手掛けた資料など、織物文化の歴史を知ることができます。

  • 織物工場見学
    織物工場見学

夕方からは川島テキスタイルスクール工房にて染色実習。3つの原色:赤・黄・青の染料を0.01g単位まで正確に測り、微妙な色合いを調合して毛糸に染色する「混色図」の制作を行いました。みんなで合計20色を染め上げ、全員に分配して2時間の実習が終了。隣接する川島テキスタイルスクールの寮に宿泊しました。


  • (写真A)織物工場見学  (写真B)染め上った20色の毛糸
    (写真C)翌朝スクール前で記念写真

2日目 修学院離宮と桂離宮見学

今日はフィールドワークのハイライト、2つの離宮を一日で巡ります。共に事前に許可を得た18歳以上の者でないと入場できません。まず比叡山のふもとにある修学院離宮へ。17世紀中頃に後水尾上皇の指示で造営され、上・中・下の3つの離宮からなり、借景の手法を採り入れた庭園として、我が国を代表するものです。広大な庭園と建物は、王朝文化の美意識の到達点と位置づけられています。建物の所々に細やかなデザインを発見しながら、1時間半ほどかけて園内を歩きました。


  • (写真D)修学院中離宮客殿
    (写真E)中離宮客殿欄干(らんかん)のデザイン
    (写真F)修学院離宮隣雲亭から浴龍池を臨む
    (写真G)隣雲亭の「一二三(ひふみ)石」

午後は西京区桂川ほとりの桂離宮を見学。17世紀の初めから中頃までに八条宮初代智仁親王と二代智忠親王によって造営され、日本庭園として最高の名園といわれています。大胆な市松模様の壁面や、特定の日に水盤に月を映して見る仕掛けなど、現代でも十分通用するデザインがあふれていました。


  • (写真H)桂離宮賞花亭から庭園を見る
    (写真I)桂離宮書院 (写真J)松琴亭のインテリア

  • 左から「真」「行」「草」の敷石デザイン

3日目 陶芸絵付け実習、西本願寺、角屋もてなしの文化美術館見学

清水寺近くの陶芸工房「東哉」で、陶芸絵付け体験実習を特別に行っていただきました。素焼きの平皿か湯呑に鉄か呉須(ごす)で自由に絵付けします。各学生ともに個性的な作品が仕上りました。焼きあがった器は後日届けられるので楽しみです。実習の前後に清水坂・三寧坂界隈を散策しました。


  • (写真K)陶芸絵付け実習 (写真L)絵付け作品の完成

昼食後は市バスで西本願寺へ。国宝の飛雲閣、唐門、阿弥陀堂を見学しました。

最後に重要文化財の揚屋(料亭)「角屋もてなしの文化美術館」へ。通常公開されていない2階の座敷を学芸員の説明を聞きながら見学。精緻な文様と細やかな工夫にあふれたインテリアデザインに多くの学生が魅了され、この旅で一番の収穫となりました。


  • (写真M,N)角屋もてなしの文化美術館見学

夜は鴨川沿いの料亭で川床料理を体験。舞妓さんの踊りが披露されました。質問コーナーなどで盛り上がった後、全員で記念撮影。フィールドワーク最後の夜に相応しい、華やかなひと時を過ごしました。


  • (写真O)舞妓さんお座敷体験 (写真P)舞妓さんと一緒に記念撮影!

4日目 竜安寺、仁和寺見学

世界遺産・龍安寺。白砂を敷き詰めた中に大小15個の石を配置しただけの枯山水庭園。どこから庭を眺めても、必ず一個は他の石に隠れて見えないように設計されています。写真撮影は問題ないがスケッチは禁止とのことで、少し残念でした。徒歩で世界遺産・仁和寺へ。境内を散策し、金堂前で記念撮影。学生はおみくじをひいた後、御殿の建物と庭を巡ります。午後は市中に戻り、自由行動。一部学生と旅館近くの京都デザインハウス(安藤忠雄設計)など新しい京都の空間デザインを見学しました。


  • (写真Q)竜安寺石庭へ向かう階段で (写真R)世界遺産龍安寺石庭
    (写真S)仁和寺金堂前にて (写真T)京都デザインハウス

感想

染色実習や陶芸絵付け体験は、実際の制作が行われる工房や工場を併せて体験することで、普段の学びとその延長上にある現場とのつながりを体感する貴重な経験となりました。一度に4人ずつしか入場できない2つの離宮見学は、通常だと団体行動に組むことは難しいのですが、同日の見学で2つの離宮の空間の特徴を等身大で比較することができました。学生にとっては今後の課題や制作に対するとても良い刺激となったことでしょう。

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