研究室の「GUEST BOOK」

私の研究室のテーブルには「GUEST BOOK」というタイトルのノートがあります。これは、来室学生用の自由帳・落書きノートです。この研究室を訪れた学生諸姉が自筆サインや、私との面談・雑談後のコメント、その時どきの心境、文字どおりの落書きなどを思い思いに書いていきます。来訪者には「本当に自由に何でも書いていいよ」と伝えています。学生たちが勝手にシールをペタペタ貼ったり、クレヨンやカラーペンで“おえかき”したりもして、このノートを“もてあそんで”くれているのを私自身も楽しんでいます。

  • 研究室の「GUEST BOOK」
  • 研究室の「GUEST BOOK」

私は研究室のドアをいつも開けっ放しにしています。少しキザですが、学生諸姉が気軽に足を踏み入れやすいようにという思いを込めてのことです。殺風景な室内ですが、大学館の研究室にはどの部屋にも応接セット(ソファーとテーブル)が配備されており、窓の外には緑の山々も眺めることができて、学生たちにとっても快適な空間のようです。私との面談や相談・質問だけでなく、学生たち自らが互いの語らいの場や打ち合せの席として使っていったりもします。このテーブルを、これまでに数えきれないほどたくさんの学生たちが囲み、このノートに書き込みをしていきました。

最初のページは2007年の4月に始まっています。私が本学に赴任した年です。第1号の書き込みは私のゼミの1期生たちによるものです。ノート選びも学生の趣味に任せたいと思い、私の頼みに応じてこのノートを買ってきてくれたのもゼミ1期生でした。
幾千ものかけがえのない刹那がここに刻まれています。「プレゼン、がんばります」「卒論が終わりました」などの書き込みがあります。「ねむいです」「あー、疲れたー!(笑)」などのコメントもあります。ゼミ生ばかりではありません。学科内の全学年はもちろん、授業内外で顔なじみになった他学科の学生や、久しぶりに母校に足を運んだ卒業生のほか、大学見学に訪ねてくれた高校生の筆跡まであります。

改めて手に取ってページをめくってみると、書き込みの一つひとつから、この研究室を舞台として繰り広げられたたくさんの記憶が蘇ってきます。新入生やゼミ生との忘れ難い最初の出会い、来室学生たちの授業内容への真剣な質問、何かを思いつめたような冴えない表情、「内定決まりました」という照れ笑い、他の研究室にご迷惑をお掛けしているのではと気掛かりになるほどのにぎやかな笑いの輪…。相談に訪れた学生と、人生を左右する選択をめぐって何時間も激論を交わしたこともありました。叱ることの難しさ、教員としての無力、我が身の不甲斐なさに打ちのめされるときもありました。はたまた、「あのときの先生の一言を一生忘れません」と回顧してくれる卒業生もいます。

この研究室を舞台に出会い、時間を共有し、巣立っていった数々の学生たち、そして、また明日もフラッと立ち寄って現れるであろういつもの学生たち…。その一人ひとりが遺していく何気ない時間の記憶を、このノートは永遠にとどめてくれています。私にとって、何物にも代え難い財産です。

もうすぐ2冊目が終わろうとしているノート。3冊目を自分で買い替えるのはわけもないことですが、それはやはり、またOGのゼミ1期生にお願いしようと考えているところです。

(榎本 環)

教員エッセイ :新着投稿