国際文化学科教員による授業紹介リレー No. 11 「西洋美術の旅」

観光文化コース 藤田 啓子

『美術史』という高校にはない学問の魅力を探る

これまで美術作品の鑑賞をしたり、実際に作品を制作、あるいは模写したり、という授業を受けてきたことでしょう。しかし、この授業はそれとは異なり、まず一点の作品が誕生する動機やその制作過程を探ります。

現代では、画家や彫刻家、あるいはデザイナーという特別な才能を持った人々が、自分の想いを表現するために作品を制作する場合が多いのですが、過去はどうだったのでしょうか?古代から中世にかけて、制作者の名前が判っている例は、どれほど美しい作品であってもとても稀有なことなのです。

制作者はなぜ名前を残さなかったのか?

多くの場合、名前を残す必要がなかったのです。というのも、作品は注文主のためであり、神に捧げるためでした。

私たちは作品を「鑑賞」して、「美しい」とか「好きだ」「上手だ」と表現しますが、それは、実は注文主の立場と同じです。なぜならそこには制作した側の苦しみや悦びを考えて、どうしてこのような不思議な表現にしたのか、制作期間はどの位だったのか、どの位の収入を得たのだろうか、更には彼らの実生活は?といった根本的な問題は無視されています。

美術は無文字の文化

こうした様々な疑問を解く鍵は、同時代の文字資料にあります。ところが残念なことに、制作者の多くは文字を書くことができなかったので、当事者の想いを綴った第一資料は極めて限定されてしまいます。

しかし、生身の人間が携わる限り、どんなに小さく不細工な作品でも制作者の想いとその時代の精神が内包されています。授業では、作品を出来るだけ多く比較することによって、まず時代の共通点を探ります。その共通点が失われた時、それは一つの時代の終わりであり、新たな時代の始まりといえるでしょう。

過去から現代を探る

このような探求を続けると、皆さんが良く知っているレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ルノワールやモネの作品にも、彼らの時代との共通点とそれとは異なる特徴が認められます。共通点とは、伝統であり、異なる特徴とは革新、オリジナリティでもあります。彼らが同時代から必ずしも認められなかったのは、この革新性に由来するのです。

革新的なピカソでさえ、伝統を自在に操って新しい作品を生み出しました。これは現代の芸術家も同様です。過去を学ばずして芸術家の未来はないでしょう。

この授業を通して、西洋美術の魅力の一端を知って下さることを望んでいます。

教員の声 :新着投稿