月に想う

駒沢女子大学がある東京では、今年は秋の訪れが早かった。毎年8月下旬から9月始めは、去っていく夏の気配に得も言われぬ寂しさを感じてしまうものだが、今年はお盆と同時に突然秋のような天候になり、寂しさを感じる間もなかった。「秋」という語から連想されるものはたくさんあるが、月の美しさもその1つだろう。

  • 松林の月
    松林の月

仲秋(9月8日、旧暦8月15日)は夜中近くまで曇り空だったため、スーパームーンが見られなかったが、夜半には近所の黒い屋根が濡れたように鈍く光っていた。京都や金沢のような黒い瓦屋根が連なる街だったら、少し高いところから見下ろすと、さぞきれいな月光の漣が見られたことだろう。月光は、昼間日光の下で見慣れたのとまったく違った風景を見せてくれる。月光を浴びた肌は透明感のある白さで、日本人が伝統的に求め続けている「白玉の肌」のように見える。月光浴は美容によいという説もある(ただし、真偽のほどは不明)。『月光浴』という美しい写真集もある。

  • 『月光浴』,文:新井満,写真:石川賢治,小学館,1990年石川賢治氏は「月光写真」の創始者・世界的第一人者で、月光写真集のほかに「月光浴」サイトも主宰
    『月光浴』,文:新井満,写真:石川賢治,小学館,1990年
    石川賢治氏は「月光写真」の創始者・世界的第一人者で、
    月光写真集のほかに「月光浴」サイトも主宰
  • 仲秋の頃売っているうさぎの薯蕷饅頭
    仲秋の頃売っている
    うさぎの薯蕷饅頭

月を愛でる風習は日本の伝統だとよく言われる。たしかに、仲秋でもなんでもないときでも、月を見たり月を話題にしたりすることに何ら違和感はなく、時候の挨拶のような感覚だ。日本人の生活に浸透した観月の伝統は和菓子にも表れ、名月の時期は和菓子好きには楽しみな季節だ。月見団子や茶席用の上生菓子のほかに、全国各地に月をテーマにしたご当地土産としての和菓子もある。

知人の話をきっかけに、20年近く前から陰暦カレンダーを部屋に置いている。毎日の月の形のイラストが並んで、ちょっと洒落たインテリアにもなる。陰暦カレンダーを併用して驚いたことは、初めて二十四節季が実感できたことだ。二十四節季は農作業と直結している。農業にまったく縁のない私でも、野菜や魚など生の食材を買って調理する消費者として日々実感している生活の手応えが、陰暦カレンダーで納得できる。

  • 愛用中の陰暦カレンダー
    愛用中の陰暦カレンダー

話はあちこち及んだが、月をテーマに選ぶと書き尽くせないほど膨大な話題が古今東西に存在し、事典ができるほどだ。月の事典のように、教科や分野などの枠を超えて1つのテーマの下にさまざまな研究成果を集約することで、それまで気づかなかったことが見えてくるという研究方法がある。人間関係学科では、「現代社会総合講座」でもその体験ができる。6人6様、専門分野の違う先生方が1つの素材を各々の専門から語る。学生もそれぞれ個性が表れた自分の視点で自分の考えを語る。多角的な視点で出席者がお互い触発し合いながら物事を捉えて行くうちに何が見えてくるのか、毎回の授業がとても楽しみだ。独り沈思黙考することはたいへん重要なことだ。それと同時に、自分の考えを他人の目に晒して、他人の考えを聞くこともまた、思考を進める上で大切だ。そのどちらもしながら、さまざまな情報から総合的に物事を考える、そんな時間が過ごせる大学生活が楽しくないわけはない。

(石田かおり)

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