社会を洞察する力を養うフィールドワーク

人間は社会的な動物です。日々の生活ではあらゆる場面で他者との係わりを避けることはできません。一人孤独に瞑想するのも他者の存在があればこそ出来ることなのです。私たちの「生」は他者との関係のなかで作られます。それはさまざまな形をとり、生まれ、消えてゆくもので、それゆえ縁でつながった出会いに私たちは悩み、喜び、幸せを感じるのかもしれません。

人間関係学科では、大学の教室やキャンパスを飛びだし、社会のつながり、仕組みなどを学び、考え、発見する科目が数おおくあります。これらの科目群のなかに人びとの生きざまや地域社会、企業に直接ふれる学びがあります。野外調査、フィールドワークといわれるものです。その手法は大別すると2つあります。アンケートや統計を用いた定量的(具体的に量=数で表す)な調査分析と、人びとの生活状況やニーズを把握するためにインタビューや参与観察など定性的(特性、特長を浮かび上がらせる)なそれです。

文化人類学のフィールドワークでは、定性的な調査方法を重視します。多くの情報を得ることは重要ですが、情報を羅列しただけでは、その地域の文化や人びとの考えを理解したことにはならないからです。さまざまな情報のなかから実態を把握するために何が重要であるかを判断し理解することが求められているからです。社会調査の究極的目的は、対象とした社会の「リアリティ」をつかむことです。「ファクト」を列挙しても「リアリティ」に届くとは限りません。例えば、あなたが文化人類学の講義を受けるために座っている教室を、前に黒板が1つ、机の数50、椅子も50、天井に照明器具などと教室の風景(ファクト)から説明しても多くの人は興味を示しません。リアリティとは、教室で文化人類学の講義で「文化とは何か」を学んでいる意義やあなたの勉学に対する姿勢のことなのです。

  • 社会を洞察する力を養うフィールドワーク

言い換えるなら、フィールドワークの理想は、対象の社会の「人びとを見る」のではなく「そこの人びとがどのように見ているか」を理解することなのです。

(亘 純吉:文化人類学ゼミ)

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