学園祭で学べるビジネス

10月17日と18日の2日間、駒沢女子大学の学園祭である「りんどう祭」にご来場くださった皆さま、ありがとうございました。心から御礼申し上げます。人間関係学科では有志が模擬店を運営し、1年生は「ア・ラ・石田屋」でチキンナゲットとゼリージュース、2年生は「コロッとイチコロ」でコロッケを販売しました。私は1年生の顧問ということでしたが、基本的に学生主体の運営ですから特に何もしません。むしろ2年生担当の榎本先生のほうが熱心で、陰に日向に学生の面倒を見てくださり感謝しています。

実は私は大学生の頃からずっと今まで、学園祭の模擬店には反対でした。大学生なのだから研究発表や部活動の展示や実演などをするべきで、食べ物を売るなど「あるまじきこと」だと考えていたからです。それが変わったのは、一昨年の人間関係学科1期生有志による模擬店「たいやき石田や」の食材買出しに付き合ったときからです。食材が多すぎて学生だけでは持ちきれないので私も同行したのですが、前日であるにもかかわらず何の準備もできていません。たい焼き用の粉もお店に在庫がなく、「1週間前に注文してもらわないとダメだよ」と言われました。業務用の材料ですから当然と言えば当然です。仕方なく一般向けの材料を購入したのですが、最初はなかなかうまく仕上がりませんでした。それでも来場者は「学祭の食い物などまずくて当たり前」と思ってくださるのかクレームもほとんどなく安堵したのを覚えています。

天候の悪さもあって、結果的には採算スレスレで散々な結果でしたが、学生達には良い勉強になったように思えました。去年は、2年生になった学生たちが、ほとんど同じメンバーで焼きそばを販売することになりました。焼きそばは他の模擬店とバッティングする可能性が高いので、独自色を出すために塩昆布を加えることにしました。どうやら焼きそば屋を食べ歩いて研究したようです。塩昆布は原価が高いので、食材の買い出しも安い店を事前に調べて原価を低く抑える工夫をしました。また前日には段ボール紙で看板や価格表、POPなどを製作し、集客のために呼び子役を決めたり、じゃんけんをして勝った人には価格を値引いたり(負けた人はその逆)、アトラクションも考案しました。そして2日間の売り上げは、めでたく出資額の倍近い収益を上げることができたのです。

私はこれを見ていて、学生たちは学園祭の模擬店という非常にプリミティブな「経営」を通してビジネスを初体験しているのだと思いました。メニューの考案は「マーケティング」、材料の仕入れは「スケジュール管理」、価格の設定は「原価管理」、販売数把握は「プロジェクト管理」、人選や担当決めは「マネジメント」、看板やPOPは「広報」、売り子は「営業」、収益の配分は「勤務評価」などなど、素朴ではあるけれど実際の社会において今後経験するであろう多くの要素が、この模擬店運営というプロセスに含まれているのです。「学祭の模擬店は意味がある」というのが私の現在の気持ちです。

今年のりんどう祭では、1年生と2年生の模擬店が互いに向かい合って設置されました。1年生の模擬店は、店名以外はメニューが小さく書かれているだけで、何を売っているのかわかりません。店員数も増えたり減ったり安定せず、調理する姿もレイアウトの関係で全員が後ろを向いて、お客さんが来ても気づきません。チキンナゲットも紙コップに入れるので量が少なく見え、おいしそうには思えません。それにたいして2年生はカラフルなPOPに気の利いた店名、目の前で揚げたてのコロッケを並べています。学生達もおそろいの服装に笑顔で元気よく対応し、各人がてきぱきと自分の役割をこなしています。揚げたてのコロッケが不味いはずがありません。ちょっと見ただけでその差は歴然、結果が見えるようです。

  • 人間関係学科2年生有志「コロッとイチコロ」
    人間関係学科2年生有志「コロッとイチコロ」

しかしこの2年生達も、昨年は惨憺たる有様だったのです。1年生で失敗して2年生で取り返す、毎年同じことを繰り返しているのは、模擬店が各学年で独立しているため上級生からの引継ぎがうまく行かず、ノウハウが共有されないからです。そのために説明会には先輩の学生にも来てもらってアドバイスを聞きますが、それでもやはりうまく行きません。しかし、学生が毎回ゼロから学び1年目の失敗を2年目で挽回するというパターンは、考えようによっては「ビジネス体験」という社会勉強の意味で有益かもしれないのです。手取り足取り教えてもらうのではなく、自分たちで体験し考え出すことで本当に身に付く経験ができるとも言えるのではないでしょうか。

  • 人間関係学科1年生有志「ア・ラ・石田屋」
    人間関係学科1年生有志「ア・ラ・石田屋」

もっとも、来場者の方々にご満足いただける商品を提供するにはまだまだ努力が必要で、購入してくださるお客様には申し訳ありませんが、学生のビジネス体験第一歩だと思って、どうか大目に見てくださることをお願いいたします。来年もぜひ駒沢女子大学りんどう祭にお越しください。

小林憲夫(メディア文化)

2015年11月11日

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