人間関係学科の授業――わたしの工夫

授業終了のチャイムが鳴る。授業を無事に終えた達成感と同時に、「今日の授業はうまく行ったのだろうか」という疑問が浮かぶ。熱心に頷いて授業を聞いてくれた学生がいる。つまらなそうな表情をしている学生や授業中熟睡していた学生もいる。うまく学生が反応してくれていると感じた次の瞬間、冷めた空気が教室を包む時間もあった。全員が満足する授業などあり得ないと知りながら、授業中に学生が頷いてくれればとても励みになるし、目を伏せている学生が多いと元気がなくなる。「教えることは勉強することだ」とおっしゃった先生がいらしたが、その通りだと私は思う。

学生が学修意欲を持ち授業モチベーションを維持するために、大学教員には実に様々な工夫が要求される。双方向、学生参加、反転、グループ学習、マルチメディア、eラーニングなどなど、用語にも事欠かない。しかし、実は、これらは学生のためだけではなく、教員のためでもあるのだ。出席していても寝ていたり他のことをやっていたりする学生の存在は、教員の教える意欲も大きく削ぐ。全員のレベルに合わせた授業ができないことはわかっていても、教員にとって自分を見ていない学生の存在は大きい。学生のモチベーションを上げて授業参加を促すのは、教員の「講義意欲」を増すためにも重要なのだ。

学期が始まるまでに、カリキュラムに基づいて授業を組み立てる。学生の中のターゲット層を考察し、シラバスを作り、自前教科書※を書く。学生の反応を考え、そのための資料を想定し準備する。動画資料を探して尺を考えてキャプチャしトリミング・編集するだけで1時間はかかる。それでも自分よりずっと若い女子学生の反応は予想できない。だからプランBやプランCまで、3パターンぐらい用意する。それから実際の進行を考えシミュレーションを行う。90分授業のシミュレーションには90分以上かかるから、教員は授業ごとに2~3時間は準備に費やす。週に10コマあるとすれば30時間は必要である。

それでも実際に授業が始まってみると想定が外れることも珍しくない。以前はワンクール終了すれば次のクールからは講義が楽になると思っていたが、それは間違いであった。私の科目のように変化が激しい分野では、苦労して書き上げた自前教科書も数年で陳腐化する。単位取得済みの学生は二度とその授業は履修しないし、毎年入学してくる学生の傾向やレベルが異なり、履修する学生数も異なる。授業当日にならなくてはわからないこともある。そもそもその日の出席人数すら予想できないのだ。

学生のためになる有意義で良い内容だと思っていても、学生が理解できず興味を持てなければ意味がない。将来に役立つと信じていても、学生が覚えなくては使えないだろう。どこが理解できなかったのか、どうすれば良かったのか。授業のたびに一喜一憂しつつ、次の授業のために毎時間、毎日、毎週、毎期、振り返り改善策をあれこれ一日中考える。実は、この時間が充実した教員生活なのかもしれないと、最近私は思うのである。

※自前教科書とは、駒沢女子大学独自の制度により作成された教科書。科目担当教員自身が、15回の授業を1章ずつ15章に分けて制作するため、市販の書籍と異なり、実際の授業内容に沿ったものとなる。大学の予算で印刷し、履修する学生に無償配布するため、学生の経済的負担もないというメリットがある。2006年度文部科学省「特色ある大学教育支援プログラム」(特色GP)に採択された。

7月1日(小林憲夫)

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