『南総里見八犬伝』刊行200周年に寄せて

“西の源氏物語”“東の里見八犬伝”という呼び方をご存じでしょうか。日本の二大長編小説として有名な『源氏物語』と『南総里見八犬伝』は、江戸時代の読みもの番付では東西の横綱と称されるほどのベストセラーで、現代でも売れ続けている人気作品です。

この『南総里見八犬伝』は、曲亭馬琴が48才になる文化11(1814)年に発表されました。
したがって今年でちょうど刊行200周年となります。天保12(1848)年の75才に至るまで、足かけ28年もかかって著された力作で、9輯98巻106冊にも及ぶ日本の古典文学最長の作品です。

  • 『南総里見八犬伝』(宝林寺所蔵)
    『南総里見八犬伝』
    (宝林寺所蔵)
  • 里見種姫(ふさひめ)
愛犬之図(宝林寺所蔵)
    里見種姫(ふさひめ)
    愛犬之図(宝林寺所蔵)

この物語のメインテーマは、ヒーローが悪者を退治する勧善懲悪(かんぜんちょうあく)にあります。史実にもとづいた里見氏をはじめ、当時の人々をとりあげて、馬琴の意のままに大活躍させる痛快な娯楽小説になっています。

ところで今回は、この『南総里見八犬伝』に登場するヒロインの伏姫に実在のモデルがいることを 紹介しましょう。戦国武将として隆盛を誇った里見氏の第6代、里見義堯(よしたか)の長女、里見種姫(ふさひめ:1541~1589)です。

種姫は千葉県市原市の宝林寺を開くと、その裏山にある洞窟に住みながら、愛犬とともに尼僧として戦国の世の終わりを生涯祈り続けたといいます。実は現在、私はそのお寺の第24世住職として里見氏一族の菩提をお守りしております。

戦国の世に翻弄され、戦のたびに涙を流した悲劇の姫君…。今朝も世界のどこかで起きている戦争のニュースを目にしましたが、私自身、姫君のお位牌に毎日お経をあげながら、当時の人々の切なる平和への願いを思わずにはいられないのです。

  • 姫の洞窟周辺の風景
(中央:宝衛橋)
    姫の洞窟周辺の風景
    (中央:宝衛橋)

(千葉 公慈)

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