道元禅師のことば【第3回】

面(むか)いて愛語を聞くは面(おもて)をよろこばしめ、心を楽しくす。
面(むか)わずして愛語を聞くは肝に銘じ、魂(たましい)に銘ず。
道元禅師『正法眼蔵』「菩提薩埵(ぼだいさつた)四摂法(ししょうぼう)」より

愛語とは人に対して思いやりのある優しい言葉を投げかけることです。「ありがとう」「お元気ですか?」、そんな何気ない言葉によってその場の雰囲気が変わり、コミュニケーションがスムーズにいくことがよくあります。

言葉は他人との人間関係を築く大切な道具ですが、その同じ言葉も、直接面と向って言われた場合と、そうでない場合とで受け取る側の気持ちも変わることがあります。

『鳩翁道話(きゅうおうどうわ)』という本に、素行のひどい放蕩息子の話があります。親が何を言っても耳を貸さず、そのあまりのひどさに親類縁者が家に来て息子を勘当することを親に強要します。その息子は一同を驚かせようと家の外に潜んでこっそり聞いているのですが、息子のために家がつぶれても本望と涙して義絶を拒む両親の言葉を聞いて、初めて自分のふがいなさを身にしみて感じ、以後別人のように行いを改めたのです。

「面わずして愛語を聞く」ことはやはり肝に銘じるものがあるようです。