【学長メッセージ】新入生の皆さんへ

本学へのご入学おめでとうございます。
今新たなスタートラインに立っている皆さん、それぞれの心では夢と希望、同時に一抹の不安、そんな矛盾する感情が交錯していることでしょう。皆さんはこれまで新型コロナに翻弄された日々を過ごされ、その中でご自身の将来の人生の重要なステップとして本学を選択されました。
私たち教職員は皆さんが本学で充実した学生生活を送ることができるよう全力で皆さんを応援させていただきます。

人間総合学群・人間健康学部・看護学部・短大保育科・大学院人文科学研究科、それぞれの教育課程の学修に臨む新入生の皆さんにとって、自分の将来の進むべき方向性に関わる専門的な学修が最も大切です。特に管理栄養士・看護師・保育士などを養成する学部・科では、国家資格取得そのものが教育の具体的な目的となります。

しかし私は新入生の皆さんがそれぞれの在学期間において専門的学修以外のさまざまな教育活動を通じて自らの枠を広げることにも目を向けていただきたいと思っています。
かのドイツの小説家ヘルマン・ヘッセに「旅の秘術」という作品がありますが、そこに次のような一節があります。

ただ目的をせわしなく求める目には、さすらいの甘さはついに味わわれない。森も川の流れも、あらゆる途上で待っている一切の壮観も閉ざされたままだ。

つまり目的に向かって脇目も振らず突き進むことも大切ですが、目的地に到達するためだけの旅では、その途上にあるさまざまな美しい風景、かけがえのない人と出会い、輝ける青春の一頁一頁の意味さえも見失ってしまうのではないでしょうか。

皆さんのこれからの学生生活は必ずしも順調であるとは限りません。山あり谷あり、晴れの日もあれば、雨の日もあります。結果が出ないこともたくさん経験するはずです。しかし実はそうしたすべての経験こそが、皆さんを心豊かにしていくはずなのです。
ですから私は皆さんに「ゴールだけに目を奪われず、結果にもとらわれず、日々のなにげない私の命を大切に生きてください」ということをお伝えしたいのです。

このメッセージは実は鎌倉時代永平寺を開いた道元禅師の禅の精神に基づいています。本学は昭和二年、山上曹源先生が道元禅師の禅の精神を基軸に駒沢高等女学院を創立して以来、96年の年月を経て、現在本学は仏教系の女子大(四年制)として東日本では唯一の存在となっています。

仏教といいますとお寺での亡き人の供養というイメージがあります。しかしその一方で2500年以上もの間、その教えは国境や民族の壁を越え普遍的な真理を提示し続けてきたのであり、今もアジア、さらには世界の人々の心のよりどころとなっているのです。

現代の精神医学、臨床心理学の分野、あるいは企業の研修などで取り入れられている心理療法にマインドフルネスというのがあります。これはマサチューセッツ工科大学のジョン・カバットジン教授が主に開発した、ストレスなどを解消するための療法です。このマインドフルネスを日本語で初めて翻訳した本の序文に、ジョン・カバットジンは日本人に向けて次のような文章を書いています。

私は、長年、日本の文化から大きな影響を受けてきました。1960年代初期に、まだ学生だった私に初めて日本の禅というものを教えてくれたのは、鈴木大拙でした。その後、鈴木俊隆著”Zen Mind, Beginner’s Mind”に出会い、本格的に瞑想の精神を探求する道に足をふみいれることになったのです。13世紀の偉大なる禅師、道元の優れた思想にも大きな影響を受けました。(中略)私は、道元が何を言おうとしているのかを真剣に考え、この言葉には、日本だけではなく西洋にも通じる、深い教えがこめられていると確信したのです。
(春木豊訳『生命力がよみがえる瞑想健康法』実践教育出版、1993年)

ここでジョン・カバットジンが紹介した鈴木俊隆という日本の禅僧は永平寺からサンフランシスコに派遣された方で、あのスティーブ・ジョブズも鈴木俊隆老師のこの著書を愛読し坐禅を組んでいたそうです。

この3月31日にもNHKの番組で、このマインドフルネスが特集されていましたが、実はこうした現代の最先端の分野においても、本学の建学の精神である道元禅師の教えが注目され、その普遍的な価値が見出されているのです。ぜひとも本学の教育の原点にある禅の教えが決して古びたものではなく、現代の私たちを支える大切なものがあるということをご理解いただければと思います。

なお本学では建学の精神とふれあう場として毎週月曜日の昼休み、学燈会が記念講堂で開催されますので(12時30分~50分)、ぜひご参加いただければと思います。

重ねて申しますが、これからの学生生活において、皆さんはきっと失敗をたくさん経験するでしょう。しかし、失敗の経験があってこそ、それが身にしみて自分を変革する力となり新たな価値や意味を発見することにつながるのです。そしてそうした見方が本学の教育の根本にあるのです。

最後に皆さんが本学で充実した日々を過ごされることを祈念して学長の新入生への最初のメッセージとさせていただきます。

駒沢女子大学・駒沢女子短期大学 学長 安藤嘉則

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