自由への頌歌[芸術科 平田]
2024/12/23
2024年も終わりですね。せっかく年末のこまつぶ当番なので年末の話をします。
年末になると日本ではいろいろな演奏会でベートーヴェンの交響曲第9番、いわゆる「第九」が演奏されます(これは戦後に始まったとされる日本独自の慣習だそうで世界中が年末に第九を演奏しているわけではないそうです)。第九には有名な「歓喜の主題(よろこびの歌)」があるのでみなさんも1度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
この主題が登場するのは最終楽章である第4楽章の途中から。ベートーヴェンは自身が作った第1楽章から第3楽章までを第4楽章の冒頭で否定し、「このような音ではなく、もっと喜びに満ち溢れた歌を歌おうではないか!」と訴えます。そして70分を超える交響曲のラスト20分頃でようやく「歓喜の主題」が歌われます。たった5つの音から始まるシンプルな旋律は「世界平和」や「人類愛」を歌った讃歌として作曲された200年が経った現在でも世界中で演奏されています。
この曲は歴史的な節目で演奏されることも多く、レコードの時代から数多くの名盤と呼ばれる録音が残されていますが、中でも感動的な演奏の1つにベルリンの壁が崩壊したことを祝うコンサートでの演奏会があります。
東西冷戦の象徴とされていたベルリンの壁が崩壊したのは1989年。この年の12月24日に世界的指揮者のレナード・バーンスタインはこのベルリンの地で西ドイツ、東ドイツ、アメリカ、イギリス、フランス、ソ連と6つの国から優秀な演奏家を集めて第九の演奏をしました。更にバーンスタインは歌詞にある「Freude(歓喜)」を「Freiheit(自由)」という歌詞に変更して歌うことにしたのです。肺がんに冒され最後の力を振り絞るように指揮をするバーンスタイン。そしてかつて敵対していたさまざまな国の人々が1つの舞台に集い、奏でるこのコンサートは歴史的な名演として人々の記憶に残ることとなります。
この演奏を聴くと「音楽は人と人をつなげる」という意味が分かるような気がします。人はお互いを憎み合ったりすることもありますが、音楽を奏でるということは人を信じるということなのです。
今年の年末はぜひ、第九を全身で浴びてみてください。
West Side Storyの作曲者でもあるバーンスタイン。
世界中の人々から愛された人でした。
ベートーヴェンの自筆譜 歓喜の主題は静かに始まります。
この交響曲の最も美しい瞬間です。
芸術科 平田