夢をかなえる[国語科 新村]

国語の教師になりたいという生徒がいる。読書が好きで、「教師になって読書の楽しさを生徒に伝えていきたい」と目を輝かせて話すのを聞いていたら、自分の大学時代を思い出した。教師を目指していたが、教師になって何かがしたいというより、小学生の頃の先生への憧れをひきずった、曖昧な思いのままだった気がする。女子高育ちで、のんびりとしていたので、大学では同級生たちにも「もっとしっかりしなよ」と活を入れられることもあった。地方から出てきて、卒業後は地元に戻って教師になると決めている友人に「地元で、女性が一生働こうと思ったら教師になるか、農協に入るかしかないのよ」と力説された時は、自分が情けなくなった。なんとなく教育学部に入って、大学3年になっても小学校の教師になるか、中高の国語教師になるか、それとも別の道を行くか、決めかねていた。

そんな私にとって転機となった出来事がある。国語教育の講義が終わった後のことだった。先生が私を呼んで、「君、この本が読みたいでしょう」とおっしゃった。何のことだかわからなかったが、断ることができず、その本をお借りすることになった。それが『大村はま国語教室』だった。この本が面白かった。大村はま先生の授業実践を夢中になって読んだ。この出来事をきっかけに、国語の教師になろうという思いがはっきりとした形になったといえる。

それにしても、あの時、教室には40人ほどの学生がいたのに、先生はどうして私に、この本を貸してくれたのだろう。講義でお世話になっていたので、私の顔と名前はご存じだったとは思うが、個人的な話をしたことはあまりなかったのに、まるで、私がこの本を必要としていたのがわかっているようだった。いまだに不思議で仕方がない。

教師を目指す彼女にもこれからさまざまな出会いがあるだろう。今の気持ちを大切に、夢をかなえてほしいと思う。彼女と出会ったことで、忙しい毎日の中で、ともすれば忘れてしまいがちな教師になろうと決意したあの思いを私も取り戻すことができた。

国語科 新村

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