【授業実践記録】「下人」の性格タイプをMBTI分析 !? 名作『羅生門』の心情変化を動画で描く、高校1年生のクリエイティブな探究学習
2026/10/06
高校国語の定番教材である芥川龍之介の『羅生門』。これまで幾度となく教えられてきたこの不朽の名作に、今年、高校1年生のクラスで新たなアプローチを取り入れた授業を展開しました。
生徒たちに提示した課題は、「下人のMBTI(性格タイプ)分析を通して『正当化の心理』を多角的に読み解き、その心理変容を動画として表現する」というものです。古典的な名作と、現代の高校生にとって身近な分析ツールや表現手段を融合させることで、生徒たちの読解力と探究心は想像以上に引き出されることとなりました。
■ 授業の狙い:「正当化の心理」と「エゴイズムの本質」に迫る
本単元で最も大切にしたのは、主人公である「下人」の心情を深く読み取らせることです。単にストーリーの筋を追うのではなく、下人が「盗人になるか、餓死するか」の葛藤から、最終的に老婆の着物を剥ぎ取って夜の闇へ消えていくまでの「心理変容」にスポットをあてました。下人はどのような論理で己の悪い行為を「正当化」したのか。そして、その裏にある人間のエゴイズムの本質とは何か―― 。これを自分自身の問いとして捉え、批判的に考察する力を養うことを目指しました。
■ 導入のアプローチ:身近な「MBTI分析」で心理に迫る
授業の冒頭、生徒たちに投げてみたのが「下人をMBTIで分析してみよう」という問いです。生徒たち(Z世代)にとって馴染み深い心理・性格診断フレームワークを用いることで、登場人物が一気にリアリティをもって動き出します。「下人は元々、規範や責任感を重視する思考(T)タイプだったのではないか」「だからこそ最初は悪に踏み切れず、気弱に迷っていたのでは?」といった意見が上がりました。本文の記述や芥川独特の語彙を丁寧に拾い上げながら、老婆との対峙によって彼の心のスイッチがどう切り替わったのかを読み解かせていきます。 「老婆の『生きるための悪』という論理を聞いた瞬間、下人は自分の悪事を肯定する免罪符を得たんだ」―― 生徒たちは本文の根拠を挙げながら、下人の「正当化のメカニズム」を鮮やかにロジカル化していきました。
■ 学びの昇華:グループで挑む「動画制作」と表現の工夫
読解を深めた次のステップとして、「下人の心理変容を伝える表現動画の制作」を課しました。
- 文学的背景の組み込み: 芥川龍之介がなぜ『今昔物語集』などの古典(王朝物)を題材に選んだのか、彼が生涯を通じて描こうとした「エゴイズム」というテーマについて事前に調べさせた知識を、動画の演出やテロップ、ナレーションに活かそうとする姿が見られました。
- 粘り強い思考と柔軟な修正:「このシーンでの下人の視線は、老婆を見下しているように表現したい」「語彙の意味を正確に伝えるために、この言葉を画面に出そう」など、他者の意見を取り入れながら、当初の制作プランを柔軟にブラッシュアップしていく姿が印象的でした。
■ 実践を振り返って:受動的な「読解」から、主体的な「探究」へ
評価(ルーブリック)においては、言葉の意味や芥川の時代背景といった基礎的知識の理解はもちろん、叙述に基づいた論理的・独創的な思考、そして粘り強く課題を調整してやり遂げる主体的な姿勢を重視しました。生徒たちは途中で考えるのをやめたり、受け身で作業をこなしたりすることなく、最後まで見通しを持って熱心に動画を完成させてくれました。
生徒たちにとって身近な「MBTI」という切り口から始まり、緻密な本文読解を経て、デジタル動画として表現・発信する―― 。今回の授業を通して、時代を超えて「人間の正当化の心理」や「エゴイズム」という普遍的なテーマに自分ごととして向き合う生徒たちの姿を見ることができ、授業者としても大きな手応えを得る実践となりました。
