「主人公として輝き続ける女性を育成したい」

現代社会における女子大学、女子短期大学の展望

本学は学園創立以来、禅の精神を大切に受け継ぎ、一貫して女子教育の伝統を積み重ねてきました。しかし現在はダイバーシティ(多様性)という言葉が社会的なキーワードとなり、性の多様性も叫ばれる中、本学の女子教育のあり方そのものが問われています。

男女共同参画局が内閣府に設置され、法的整備も進み、女性起業家や女性リーダーがメディアに取り上げられることも多くなりました。しかし世界的見地から見ればどうでしょうか。2022年のジェンダー・ギャップ指数の日本の総合順位は146カ国中116位。国会議員(衆議院)の女性比率は10%を下回るといった状況は相変わらずです。このように現実としては、まだまだ男性優位社会が色濃く残っています。そんな中、複雑、かつ多様化する社会にしなやかに対応でき、人として成熟した女性の育成をめざす本学の教育は、今後もますますその特長をバージョンアップしなければなりません。

  • 駒沢女子大学・駒沢女子短期大学 学長 安藤 嘉則
    駒沢女子大学・駒沢女子短期大学
    学長 安藤 嘉則

私は、女性のリーダー的人材を涵養することだけが本学のあるべき姿ではないと考えています。「随処に主となる」という禅の言葉があります。それは、どこの立ち位置にあっても、目下取り組むべきことを、「主人公」として主体的に向き合うことが大切だというメッセージです。「主人公」というのはもともと禅語ですが、これは本学の学則第1条の「十分に自己を実現し、新しい文化の創造的担い手となる人間性豊かな現代女性」というところにつながります。豊かな心を育て、どんな職業、どんな役割に就いても、その場その場で「主人公」として輝き続ける女性を育成していくのです。

AIの時代に見る教育のあり方

今、ChatGPTの話題でもちきりです。これからはAIが社会のあらゆる場面で活用され、教育のあり方にも大きな影響が出てきます。AIは多くの条件下で正解を得るための手段として有効なツールです。しかし当たり前ですがAIには心がありません。その心なきAIは悪意ある人間の手先にもなり、社会的大問題となっています。私は、AIの時代だからこそ、心をはぐくみ、「豊かな人間性」を涵養する人づくりが大切であると考えます。

人はときには悩み苦しみ、間違いを犯します。仏教で四苦八苦といいますが、これらの四つの苦しみ(生老病死)と、これに愛別離苦(愛する者と別れる苦)、怨憎会苦(恨む相手に会う苦)、求不得苦(求めるものが得られない苦)、五陰盛苦(心身の働きに執着する苦)の四つを加えた八つの苦しみは、遥か昔のブッダの時代の課題であると同時に、今を生きる私たちが向き合う課瞑です。人はさまざまな間違い、失敗、そして苦しみの経験を試行錯誤しながら乗り越えたときに、真の学び、あるいは成長があるのではないでしょうか。そうした体験は正解だけをめざす、心なきAIにはないのです。

  • 駒沢女子大学・駒沢女子短期大学 学長 安藤 嘉則