学科主任 川野誠子教授(医師・医学博士)による講演 「大学生活を送るにあたって」
2013/05/29
「基礎ゼミⅠ」では、新入生に対して、大学での学習を始めるにあたって必要とされる心構えや技法を身につけ、予習・復習等の自学自習を効率よく行えるようにします。また、「読む・聞く・書く・話す」という基本的技能を習得することを目標とした、大学での学習の基礎を確立するための科目でもあります。第3回の授業では、大学生活を送るにあたっての心構えを学ぶために、講演(1)では学科主任の川野誠子教授の話、講演(2)では学部長の西山一朗教授の話を聴き、それに対しての自分の考え・意見をまとめる課題が与えられました。以下では、川野教授の講演(1)の内容を紹介します。
#1、“大学では何を学ぶのか?”について考えてみましょう。
中国の古典「四書五経」のひとつ「大学」には、「大学とはそもそも、己を修め人を治める道」とあります。自己自身をますます修めていくとともに、他にも良い影響を及ぼすことができるように学んでいく・・・・と解説されます。
大学では、講義の他に日常生活、友人、先輩との交流、政治・経済を含めた社会の出来事、自然界の現象など、ありとあらゆるものから貪欲に学んでいただきたいと思います。自ら学ぶことが大切で、自分の頭で考え、ヒトとして強く生きる力を身につけるために知識と知恵を学ぶのです。100年近い寿命の人生で皆様は10代の終わりですから、これから大人の女性に成長される時期に大学で学ぶ機会を得られたことの「幸運」を「有難いと」心から感謝する気持ちをどうぞ忘れないでいただきたいと思います。「ヒトは歳を取り、そして必ずいつかは死ぬ」という絶対的真実の中で、自分の人生をどのように描くのかを自分で考え、自分で判断できる人間になっていただきたいと思います。そのために、先人が蓄積した知識を学び、それを自分の知恵にし、その学ぶ場としての大学を充分に有効利用していただきたいと願います。学ぶ姿勢に関して「論語」の有名な教訓があります。
- 之を知る者は之を好むものに如かず。
- 之を好む者には之を楽しむものに如かず。
- 之を楽しむものは之に遊ぶものに如かず。
目的を持って好きなことを学び、学ぶことが楽しいと思えれば、知ることの楽しさは達成感や満足感にも発展し、学ぶことイコール遊ぶことであると感じるなら、究極の心の贅沢を味わえることでしょう。
#2、“頭の柔軟性、多様性”について考えてみましょう。
世の中には単純に答えが出ない難しい事柄が多く、また正解が一つとは限らず、立場や条件や社会的背景等によって答えが多様であることに気づいてください。歴史の流れの中では、現在正しいとされている事が、後の世には間違いであると判断されることも充分あり得ます。模範解答を得ることのみに頭を使うのではなく、自分の頭で色々と考えるプロセスの方が大切です。狭い先入観念に囚われ、自分だけの思い込みで頭の中を窮屈にしないで、色々な可能性を自由な発想でしなやかな脳細胞を巧みに使って深く考える事の重要さを大学生活の中で学んで欲しいと願っています。このような発想で物事を考えれば、新しい発見も、知的な出会いもあり、そして、考えることの楽しさを知り、心が自由になることでしょう。
#3、“科学的思考のすすめ”
科学的視点で物事を見たり、考えたりする事の大切さを強調したいと思います。「物事の真実を見抜く力」として科学は強い武器となります。原因、成因、必然、因果関係を追及したり、事実の正確な把握をしたり、そして、信憑性を判断したりする能力を持つためには科学的視点は重要です。この視点は世の中に出回っている無責任な風評やでたらめな話などを見抜く力にもなります。これから起こり得る事態の予測も可能となり、そしてそれは危機管理にもつながり自分を守る武器にもなることでしょう。管理栄養士とは「食と栄養と健康を科学すること」であると私は思っておりますので、論理立てて物事を見て考える習慣を身につけることが重要です。また、特に、医療現場では患者さんに食事療法や栄養指導を行って病気の治療、発病の予防に努めるわけですから、ヒトを知り、理解する必要があります。そのためには、単に専門分野の知識だけでは不十分で、動物としての人間、生命体として、自然科学や医学、生物学、物理学などの知識は大切です。また、ヒトの住む世の中のことも知らなければなりません。そして、政治、経済、歴史、社会情勢、自然現象、地球環境などを学ぶためには、語学も重要です。さらに、ヒトの心を知るためには、心理学、宗教学、文学、芸術、精神医学などの勉強も大切です。
#4、“将来の管理栄養士像”について
管理栄養士の関係する分野の幅は広く、今後さらに拡大、発展すると私は推測しています。現在、世界一の長寿国日本では、高齢化社会における健康と栄養の問題が研究され、それに関する人材育成が強化され、栄養補助食品や栄養療法などが進歩していることなどから、この分野は産業界の成長分野の一つとなっております。今後、海外において、特に、人口の多い中国やインドのあるアジアでは、近い将来に日本のように高齢化社会が必ず到来します。その時は、皆様は食と栄養の専門家として、日本だけでなくアジアおよび世界をリードする指導的立場となられることでしょう。そして、この関連分野の産業は発展し、日本経済の発展に多大な貢献をされるものと期待しています。皆様が日本の将来の鍵を握っているといっても過言でないと私は思っております。
#5、“本音で語りたい事”
大学生活での学びでは、カリキュラムに沿った教養や専門分野の学問だけでなく、自分で自由に選ぶことも出来ます。目的を持って何かを探し求めるのも良いでしょう。でも、若い皆様は今何かをしなければならないという焦りなどは全く無用です。人生の先輩として伝えたいことは、まだ二十歳前の皆様にとっては、今の時期は人生の中で最も感受性が鋭く、豊かで色々なことを吸収できる能力に満ち満ちている時期ということです。
好きなこと、興味ある事に夢中になってもよいし、何をして良いのかわからなくても、なんとなくぼんやりと太陽の日差しを温かく感じたり、木々を抜けて来る風を肌に感じたり、四季折々の草木の甘い香りに感動したりするだけでも価値があると私は正直にそう思っています。究極的には、澄んだ感性を大切にしながら過ごすだけでも価値があることではないか、物事に囚われずに素直に物事を感じる心を持っているだけでも素晴らしいのではないかとさえ思えるのです。
どうぞ、これからの日々、あなたにとって大切な一日を無事にお大事に過ごしていただきたいと願っております。
<学生の感想の一部を紹介します>
- 今日の講演を聴いて、これからの4年間がとても楽しみになりました。「学問を身につけることも、内側からの美を作るための一つの術である」という言葉は全くその通りだと思うので、管理栄養士になる為の学問を身につけるだけでなく、人間として成長できるように追及していきたいと思いました。
- 先生をみならって、ひととの関わりを大切にしようと思いました。あのふんわりとして周りを和ませる雰囲気はその内面の優しさが滲み出てきているのだと思い、本当に美しくなるためには、内面を磨くべきだと解りました。
- 私は海外で英語を使って仕事がしたいと考えていました。川野先生は実際に海外で奮闘され、活躍されていたことを知り、資格の取得を第一にし、栄養学と英語を切り離し、もう海外での仕事に着くのは無理だとあきらめていた私の考えを変えてくれました。これからの4年間で私にしかできない栄養学と英語を結びつけた仕事を見つけ将来へ生かしたいです。
- 川野先生の講演では「何事も自分の頭で考えることが重要」と「あなたはあなたであればいい」という2つの言葉がとても印象的でした。私は人目を気にしてしまい、自分の意見を主張することもできずにいることが多いです。今回の講演を聴いて、このままではいけないと改めて感じました。
- 何事に対しても焦る必要はないと聞き、とても安心しました。やりたいこともまだはっきりしていないし、まだ遊んでいたいと言う気持ちもあるので、ゆっくり焦らずに沢山の事を考えて、知識・知恵を増やしていき、先生が言っていたように感性を大切にしていきたいです。